2012年4月27日金曜日

[NISTEP REPORT No.73] 科学技術指標 - 日本の科学技術の体系的分析


第Ⅱ部では、科学技術活動を支える最も重要な基盤である人材をとりあつかう。ますます多様化し、複雑化しつつある科学技術を適切にとらえるために、第 3 章では、研究開発人材 (狭義の科学技術人材) に対象を限定せず、我が国が移行しつつある知識社会とそれを支える人材に対象を拡げ検討する。第 1 節では、知識社会の進展自体に触れるとともに、知識社会への移行が必然性を持つ背景について述べる。第 2 節では知識社会の進展に伴って人材雇用や教育に起きている変化を概観し、最後に知識社会における科学技術人材についての展望を述べる。

3.1.1 知識社会への移行

我が国をはじめとする先進工業国は、工業化社会から知識社会に移行しつつあると言われている。知識社会という言葉は広く使われているが、一般的に、知識が社会・経済の発展を駆動する基本的な要素となる社会を指す語として用いられている (1)。知識社会という言葉と概念をめぐっては様々な議論があり、実際にそのような社会が到来しつつあるかどうかをめぐる対立や、この概念の曖昧さ自体を批判する意見もある。しかし、多くの統計データ、指標に示されているように、経済のサービス化や知識集約化、あるいは社会の情報化が進展していることは事実であり、知識を創造し、普及させ、活用する能力の重要性が高まっていることは確かである。

本節では、そのような認識のもとで、来るべき知識社会に必要な人材像を明らかにすることを試みる。それは、科学技術活動が多様化し、範囲が拡大しつつあるなかで、従来の科学技術の枠組みにとらわれずに広い視野から人材の状況を捉える必要があるためである。

知識社会に必要な人材像の検討に先立ち、知識社会化の進展そのものについて概観する。我が国が知識社会へ移行しつつあることを示すことは容易でないが、経済のサービス化と知識集約化が進展していることを示す指標は存在する。図 3-1-1 に、日本の GDP の産業別シェアの推移を示した。日本では、1970 年代初めまで、工業化が進展したが、その後、他の先進工業国と同様に、サービス産業の占める割合が増大した。さらに、1990 年頃を境に、すなわち冷戦の終了に伴い、日本の産業構造の高度化は一層進展し、第 3 次産業 (サービス産業) の占める割合がさらに増大していることがわかる。

知識の集約化については、いくつかの指標が存在するが、ここでは、知識に対する投資に注目し、各国の知識集約化への取り組みを比較しよう。

OECD が開発した知識に対する投資についての指標は、研究開発、ソフトウェア、高等教育に対する国全体の投資額を GDP で基準化したものである(図 3-1-2)。この 3 つの領域は各国において重視されており、特に研究開発とソフトウェアに対する投資は各国において実際に大幅に増加している。

この指標によれば、日本の研究開発に対する投資水準は OECD 加盟国のなかでは高いが、高等教育への投資水準は低く、ソフトウェアへの投資水準も決して高いとは言えない。

わが国が知識社会の基盤を充実させるためには、研究開発への投資が今後も必要であると考えられるが、それだけでなく、ソフトウェア (情報技術) や高等教育への投資を充実させる必要があろう。

【図 3-1-2】 知識への投資
注:
OECD、デンマーク、ベルギー、ギリシャ、スロバキア、メキシコは 1999 年のデータそれ以外の国は 2000 年。
<日本、米国、カナダ>高等教育ではなく中等教育に続く教育が高等教育のデータに含まれている。
<ギリシャ、デンマーク>1992 - 1999 年における年平均成長割合。
ハンガリー、ポーランド、スロバキアを除く。ベルギー、チェコ、ハンガリー、韓国、メキシコ、ポーランド、スロバキアを除いた 1992 〜 1999 年の年平均成長割合。
<ベルギー>高等教育のデータは直接的な公的支出のみを計上。
ベルギー、デンマーク、ギリシャを除く。ベルギーを除いた 1992 〜 1999 年の年平均成長割合。
資料:
OECD、"STI Scoreboard 2003"
参照:
表 3-1-2

3.1.2 人材に関する社会的変化

次に、人口構成や労働力に関して、我が国や他の先進工業国で起きている変化を概観する。このような変化は、知識社会への移行を促す原動力となっていると考えられる。したがって、次節において知識社会化が人材に関して及ぼす影響について検討するに先立ち、ここでは、知識社会化の進展が必然性を有することを示すことが目的である。

まず、人口の年齢構成が、急激に変化している。図 3-1-3 に、日本の年齢階級別人口構成比の推移と将来推計を示す。少子高齢化社会へと移り変わり、主要な労働力である 15 歳以上 64 歳以下人口の全人口に占める割合が、2000 年の 67.9% から 2030 年には 59.2%、2050 年には 53.6% へと急減すると推計されている。

さらに図 3-1-4 に示すように、各国の労働力率も 1990 年代以降頭打ちになってきており、労働力人口の減少に早急に対応する必要が生じている。

一方で高学歴化が起きている。図 3-1-5 に、日本および米国における 25 歳以上人口に占める大学卒以上の学歴を有する人口割合の推移を示す。

大学卒といっても、教育内容や進学率は各国様々であり、単純な比較は難しいものである。しかし、日米ともに大学卒以上の割合が上昇しており、高学歴化が確実に進んでいる。

労働者の数が減っても、個々人が高学歴である強みを生かせば、国全体としては労働力人口低下による影響を受けずに済む - これが知識社会への移行が将来的な社会の姿として語られる大きな要因である。知識を核としたこの新しい労働の様態は、「知識労働」とも呼ばれている。

現在は知識社会へと移行してゆく途中段階、すなわち過渡期であると一般的にはみなされているが、人材にもすでに過渡期の影響が出始めている。

たとえば、主要 5 か国の産業構造を見ると (図 3-1-6)、いずれの国でも第二次産業の従業者の割合が減り続け、代わって第三次産業が大きく伸びている。IT 産業やヘルスケア産業など知識産業は、第三次産業に分類されることが比較的多いことから、知識産業の興隆がうかがえる。

また、図 3-1-7 には日本における職業別の就労者数の推移を示した。専門的・技術的職業従事者の伸びが大きく、また保安・サービス職業従事者も伸びていることに、知識労働の増加が表れているといえよう。


3.2.1 人材雇用の変化

前節で見てきたように、知識社会への移行に伴う知識労働の増加は着実に進んでいる。知識は細分化・高度化し、その結果、企業は分社化やアウトソーシングなどを選択するようになってきている。この変化は人材雇用の側面、すなわち、雇用形態、勤務形態、海外人材登用などにも、影響を及ぼすものと考えられる。しかし、知識社会への移行に伴う影響だけを測ることは難しい。とくに日本の場合、近年の経済状況により人材雇用は大きな影響を受けていると考えられる。このことを前提としたうえで、近年の人材雇用の変化を以下に見ていく。

まず、雇用形態であるが、日本において、正規の職員・従業員として就業する者の割合は減少し、パート、アルバイト、派遣などとして就業する者が増加している (図 3-2-1)。

主要 5 か国における全雇用者に占める一時雇用者の割合の推移 (図 3-2-2) をみても、フランスやドイツが日本と同様に一時雇用者の割合を増加させている。ここで、一時雇用者とは、主として従事する職務が終身雇用契約でなく任期付きの雇用契約の者を指しており、常勤・非常勤をともに含む。

図 3-2-1、2 に見られる変化は、経済状況が直接の原因と考えられる。しかし、ひとたび増加してしまえば、知識社会へ移行している折、または移行が完了した折に経済が好転しても、一時雇用者は減少しないのではないかという見方がある。つまり、企業はその時々に必要とする知識をもつ人材を求め、労働者は自らの知識をもっとも活かせる (評価してもらえる) 企業を選ぶ、という様式が確立していくと考えられるのである。

一時雇用者の増加は勤続年数の低下を招くように思いがちだが、実のところ、全産業においてもサービス業に限っても、勤続年数は増加傾向にある (図 3-2-3)。つまり、ある企業の正職員から別の企業の正職員へ、という転職は減少しているとみられる。知識の細分化に伴って企業がコアコンピタンスを明確にしつつあり、個人の知識を活かせる場もまた、細分化された特定のものとなって、むしろ転職を減少させていると考えることができる。また、派遣による労働者は、派遣先が変わっても派遣会社を移らない限り、勤続とみなされていることも要因であろう。

転職の減少は、中途採用の割合が職種に依らずに減少してきている (図 3-2-4) ことにも表れている。

このように企業と個人との関係が知識社会に即したものに変化してゆくならば、職種、能力、成果に対する賃金制や報酬制の導入なども拡大してゆくものと思われ (図 3-2-5)、今後の動向が注目される。


つぎに勤務形態であるが、裁量労働制・事業場外労働のみなし労働時間制・フレックスタイム制などを採用する企業が増えてきている(図 3-2-5)。ここで、裁量労働制とは、業務遂行の手段や時間配分等を労働者の裁量に大幅にゆだねる必要がある業務を労使で定め、労働者をその業務に就かせた場合、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ労使で定めた時間働いたものとみなす制度である。事業場外労働のみなし労働時間制とは、事業場外の労働で労働時間の算定が困難な場合に、所定時間労働したものと見なす制度である。フレックスタイム制とは、1 か月以内の一定期間における総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者がその枠内で各日の始業終業時刻を自主的に決定して働く制度である。

労働者が知識労働者となったとき、企業に決められた時間割どおりに決められた作業をこなすのではなく、自らの勤務をマネージメントすることを認められるようになったといえる。

高度な知識を持つ人材をいかに集め、配置するかは、企業の実力が試されるところである。そのなかには海外人材の有効な活用も含められる。

図 3-2-6 には、欧州主要国における国外からの高度人材の登用について示した。この調査は、ドイツ 340 社、フランス、英国、オランダ各 170 社の計 850 企業を対象にしており、回答企業の分布は、化学 (20%)、製造 (31%)、金融 (22%)、IT (16%)、研究開発 (9%) となっている。対象企業のうち海外高度人材を登用している企業の割合は軒並み 30% を超え、英国では 50% に届こうとしている。海外高度人材登用中の企業において、全労働者に占める海外高度人材の割合は 10% 程度であり、オランダでは 17% 近い。

日本については、このような統計資料はないが、近年、例えば、人材派遣業界において国境を越えた IT 人材確保が行われるなど、海外人材を受け入れる動きが出始めている。しかし、国の政策という観点では、これまでのところさほど動きが見られない。

海外では、企業による海外高度人材の登用を国の政策が牽引・後押しする例が出てきた。図 3-2-7 に示すとおり、オーストラリアにおける IT 関連人材は 1995 年以降、一貫して入国者数が出国者数を上回っている。この傾向は、積極的に高度人材を受け入れるという、1970 年代以降のオーストラリア政府の移民政策に支えられている。

知識が細分化・高度化されてきた結果、企業はコアコンピタンス (企業の中核となる能力や適性) を明確にせざるをえなくなり、分社化やアウトソーシングが増えたと言われる。そのぶん、企業のコアとなる業務については、高度人材を厳選し、その人材が能力を発揮できる環境を与えるように変化している。この傾向が続けば、個人の持つ知識が真に有効に活用できる職場は限定されてくるかもしれない。よって、自らの知識を活用できる場を探し出す能力、またはそのような場を創り出す能力が、個人に求められていく。そして、知識労働者にとっての企業という組織は、個々人の知識が集約され、交換される場として再定義されるであろう。

3.2.2 教育の変化

知識労働には高度な知識が必要であり、しかも、知識は日々進歩している。学校教育を終えて就職した労働者は、その後も新しい知識を取り入れ、それを活用してゆかなければ、知識労働が成り立たない。

図 3-2-8 は、2000 年度における正社員規模別の計画的 OJT (On the Job Training) と Off-JT (Off the Job Training) の実施率を示したものである。企業規模に依らず Off-JT が OJT を上回っており、見様見真似で仕事を覚えるよりも、新しい知識を外部から取り入れながら仕事を組み立てている様子がうかがえる。

図 3-2-9 に示すように、社会人教育は様々な教育機関において実施されている。例えば、高度な教育を実施する機関である「大学院」では、2000 年において、829 研究科のうち 57.4% が社会人入試を行っている。社会人教育は、技術発展や社会の複雑化に対応するため、或いは社会が必要とする専門知識やスキルの変化に対応するための重要な機能を果たすようになりつつある。

知識が細分化・高度化するなか、学問体系に代表されるような大きな知識体系を習得することだけでなく、細分化・高度化された知識を習得していることが必要とされる場面も出てくる。そのような細分化・高度化された知識の習得を認定するのが資格である。資格取得をめざす社会人のニーズに伴って、資格取得支援教育も多くの機関で実施されている (図 3-2-10)。グローバリゼーションの流れのなかで、今後は、国際的相互承認のなされている資格の有効性が高まると考えられる。

さらに大学院においても、社会人大学院生の割合が高まっている(図 3-2-11)。社会人とは、調査日において職に就いている者、すなわち、給料、賃金、報酬その他の経常的な収入を目的とする仕事に就いている者であり、企業等を退職した者、及び主婦等をも含む。今後は専門職大学院の増加により、ますますこの傾向に拍車がかかることが予想される。

以上のように、知識労働に就くということは、ひとたび学校を卒業して職を得た後も、新しい知識を取り入れるべく継続教育を受け、資格を取るなどして自らの知識をアピールしていくことの連鎖といえよう。

3.2.3 科学技術人材

これまでの項では、知識社会へ移行するなかで、人材一般にどのような変化が起きているかを概観してきた。ここにみられた傾向は、科学技術活動にも当てはまると考えられる。なぜなら、科学技術活動が、高度な知識を使いながら新たな知を生み出す、知識労働そのものだからである。

たとえば、継続教育や国際的資格などの動きが科学技術分野にも及んでいる。技術士法第55条により継続教育が実施されている技術士制度や、技術者教育の国際的相互承認をめざしているJABEEの日本技術者教育認定制度がその良い例であろう。

ここで、「科学技術人材」とは研究者・技術者だけを指すものではないことを強調しておきたい。前にも述べたように、知識が高度に専門化し、細分化していくのが知識社会における知識の特徴である。これは研究開発の現場にも通じる。研究者・技術者が行う活動の範囲はより特定のものとなり、代わって新たな職域が発生してくると考えられるのである。

例えば、評価者、プログラムディレクター、STS 研究者 (STS: Science, Technology and Society、科学技術社会論などと和訳される)、科学技術 NPO (Non - profit Organization: 非営利組織) などは、そのような新しい職域に分類されうる。ほかに、特許や科学技術ジャーナリズムや PUS (科学技術の公衆理解: Public Understanding of Science) に従事する人材も、科学技術人材といえるであろう。テクノクラート (科学技術の専門知識に通じた官僚) も同様である。

しかしながら、これまで日本では「科学技術人材」という枠組みがあまり明確でなかったため、科学技術人材に関する統計や指標が未だ整備されていないのが現状である。

国際的には、2002 年に OECD (経済協力開発機構) の人材統計のための定義集『キャンベラ・マニュアル』の再検討が行われ、「科学技術人材 (Human Resources on Science and Technology)」の新しい定義が提案された。その新しい定義によれば、「科学技術の高等教育を修了した者、または、現在科学技術に関わる仕事に従事する者」が科学技術人材であり、そのなかでも「科学技術の高等教育を修了し、かつ、現在科学技術に関わる仕事に従事する者」を科学技術人材のコアと位置付けている。

この定義にしたがうと、科学技術人材のコアも研究者・技術者には限られない。高度な知識をもって、科学技術の知識を伝達したり、検証したり、マネージメントしたりする人材が、知識を生み出す人材と同じように尊重される時代を反映したのが、OECD による科学技術人材の新定義と言えよう。

とはいえ、科学技術の新しい知識を生み出す存在としての研究者・技術者の価値は、今もって健在である。新たな職域の人材が充実してくれば、むしろ研究者・技術者は知識生産に集中することが強く望まれるようになるのかもしれない。


アメリカでの27は何があります

参考文献

  1. [1] P.F.ドラッカー 『ポスト資本主義社会 - 21 世紀の組織と人間はどう変わるか -』(上田惇生、田代正美、佐々木実智男 訳) ダイヤモンド社、1993 年
  2. [2] ダニエル・ベル 『脱工業社会の到来』(内田忠夫 訳)、ダイヤモンド社、1975 年
  3. [3] 小豆川裕子 "躍進する人材派遣業 - 雇用流動化時代の新たな役割を担う - "、ニッセイ基礎研 REPORT、2001 年 9 月号

科学技術分野における知識の生産において研究者は主要な役割を果たしている。知識社会では知識生産・活用がより重視されるため、研究者の役割はより大きくなると考えられる。ここでは、知識社会における研究者に関する状況と課題を示す。

現在、我が国の研究者数は 79 万 1 千人 (2003 年) であり、米国の 126 万 1 千人 (1999 年) に次いでいる (図4-1-1)。ただし、研究者数に関する統計データは国による違いがあり、様々な条件を考慮して比較する必要がある。

知識生産の主要な担い手である研究者の割合がどのくらいかということが、その社会の知識生産の人材基盤についての重要な指標となると考えられる。ここではまず、労働力人口(就業者数と完全失業者数の合計)当たりの研究者の割合がどのくらいか、そしてそれが過去どのような変化をしてきたか見てみることにする。

4.1.1 労働力人口当たりの研究者数の変化

我が国の労働力人口 1 万人当たりの研究者数は 119 人 (2003 年) である。過去約 20 年の推移を見ると、1980 年の 64 人から 2 倍弱に増加している(図 4-1-2)。

これは知識社会への移行に伴って、知識生産の担い手である研究者の役割が増大してきたことを示している。

【図 4-1-2】 労働力人口 1 万人当たりの研究者数の推移
注:
  1. 1) 労働力人口とは就業者数と完全失業者数を合計したもの。
  2. 2) 研究者数は全てヘッドカウント。
  3. 3) 資料として用いている総務省「科学技術研究調査報告」における研究者とは、次の条件を満たす者である。
    • <2001 年まで>
      1. ① 大学 (短期大学を除く) の課程を修了した者、又はこれと同等以上の専門的知識を有する者。
      2. ② 2 年以上の研究の経歴を有する者。
      3. ③ 特定の研究テーマをもって研究を行っている者。
    • <2002 年以降>上記のうち②を削除。

      また、2001 年までは、研究者は本務者 (内部で研究を主とする者) と兼務者 (外部に本務を持つ者) とに区分されている。2002 年以降では、研究者数の統計のみが行われ、本務者数及び兼務者数の統計は行われていない。ここで研究者とは 2001 年までは研究者のうち本務者、2002 年以降では研究者を示す。

    • 4) 自然科学及び人文社会科学を含む。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
総務省、「労働力調査」
参照:
表 4-1-2

これらの研究者の増加はどのセクターから生じたのであろうか。1980 年の研究者数は 363,534 人で 2003 年までに 791,224 人となり、427,690 人増加している。この増加分の大半を産業部門が担っている (図 4-1-3 (A))。このため、我が国の研究者数の部門別の割合は 1980 年の分布(産業 47.7%、大学等 43.6%、政府研究機関 7.7%、非営利団体 1.0%) から 2003 年の分布 (産業 58.1%、大学等 35.6%、政府研究機関 4.5%、非営利団体 1.7%) となり、産業部門へ比重が大きくシフトしている。

次にその増加している産業部門の内訳を見てみる (図 4-1-3 (B))。産業の中では製造業の存在が群を抜いている。2003 年では産業部門の研究者数 460,053 人のうち製造業の研究者数は 404,961 人で 88.0% を占めている。推移を見ても、産業部門の研究者数は 1980 年の 173,244 人から 2003 年の 460,053 人まで 286,809 人増加しているが、その増加分のうち 84.1% の 241,094 人が製造業によるものである。これは前述の全体の研究者増加数 427,690 人の 56.4% である。

製造業を業種別に見ると、通信・電子・電気計測器工業、自動車工業、機械工業などの業種が、研究者数の増加に大きく寄与している (図 4-1-3 (C))。最も増加した通信・電子・電気計測器工業は 1980 年の 30,997 人より 2003 年 133,762 人と約 4 倍になり、102,765 人増加している。これは製造業増加分の 42.6% である。通信・電子・電気計測工業は知識社会を支える情報関連の機器やシステムを供給する主要な産業であり、知識社会の進展と共に同業種の研究者数が増大したと考えられる。


4.1.2 従業員当たりの研究者数の推移

(1) 産業別従業員当たりの研究者数の推移

産業において、従業員に占める研究者の割合は、その産業での知識生産の役割の大きさを示す指標になると考えられる。知識生産が重視される知識社会への移行に伴って、この割合が大きくなると考えられる。

2003 年時点で従業員 1 万人当たりの研究者数が最も多いのは製造業の 946 人である。次に鉱業 450 人、ソフトウェア業 (情報処理産業含む) 430 人、農林水産業 216 人、建設業 145 人となる (図 4-1-4)。1980 年から 2003 年の推移をみると、製造業や鉱業は従業員当たりの研究者数は増加する一方、農林水産業や建設業はあまり増加していない (ソフトウェア業は 1997 年以降に統計が作成されたため、1980 年からの推移は把握できない)。


(2) 製造業における各業種別従業員当たりの研究者数の推移

製造業の業種別の従業員当たりの研究者数の推移を見てみる (図 4-1-5)。従業員 1 万人当たりの研究者数は各業種によって異なり、大きなバラツキがみられる。これによると、従業員 1 万人当たり研究者の数が多いのは、2003 年時点では通信・電子電気計測工業 1,737 人である。次に、精密機械工業 1,531 人、油脂・塗料工業 1,511 人となっている。一方、最も少ないのは食品工業 327 人であり、次に鉄鋼業 344 人、金属製品工業 352 人、などである。また、1980 年から 2003 年への従業員 1 万人当たりの研究者数の変化を見ると、最も変化したのが出版・印刷業で 5.4 倍になっている。また、変化が小さかったのは医薬品工業 1.7 倍や、石油製品・石炭製品工業及び金属製品工業の 1.9 倍である。

このように、約 20 年間の従業員当たりの研究者数は、増加の比率は業種によって異なっているが、製造業の全ての業種で増えており、知識生産の役割が大きくなってきていることを示している。

知識社会の進展に伴って、知識の生産性を向上させることが重要になってくる知識の生産性を向上させるためには、研究者の性別や国籍といった属性にかかわらず、より優秀な人材が求められる。また、研究者の多様性や研究者一人一人の能力の向上がますます重要になってくる。ここでは、研究者の活用や育成について状況と課題を見てみる。

4.2.1 女性研究者の活用

(1) 我が国の女性研究者数の推移と研究者全体に占める割合

知識社会において、女性研究者の活用は研究人材の供給源として、また、研究者の多様性を高めることにより、知識の生産性向上への貢献が期待される。

我が国では、女性研究者の数は 2003 年 3 月時点では88,674人で研究者全体の11.2%を占めている(図 4-2-1)。過去の推移を見てみると、女性研究者数及びその割合は、増加傾向にある。知識社会の進展と共に女性研究者の役割が大きくなっていることがうかがえる。


(2) 女性の研究者の割合 (国際比較)

主なヨーロッパ諸国の女性研究者の割合と比較する。我が国の女性研究者の全研究者数に占める割合は約11%で、ドイツの 16% と比較しても更に小さい (図 4-2-2)。研究分野における女性の進出が、ヨーロッパ諸国と比較して遅れており、女性の能力を活用しきれていない。別の見方をすれば、我が国では女性研究者の増える余地は大きいといえる。


(3) 女性研究者の少ない理由

文部科学省の「我が国の研究活動の実態に関する調査 平成 14 年度」(調査対象者 無作為抽出した現役研究者 2,000 人、有効回答者数 1,355 人) においては、女性研究者の少ない理由に関して、「出産・育児・介護」がその理由として最も多くあげられている (図 4-2-3)。これは、本人や組織の努力だけで解決するのは難しく、社会全体の問題である。他には、「自然科学系の女子学生が少ない」で、女性による学科の選択に関連している。他に多いものは「女性の受け入れ態勢ができていない」で、組織のマネジメントに関連している。女性研究者の少ない理由は複合的であると考えられる。また、男女の意見が異なっていることも問題を複雑にしている。


4.2.2 外国人研究者の活用

経済のグローバル化に伴って、モノ、サービス、資本、情報の移動だけでなく、人の移動も活発化している。近年は、とりわけ技術革新と共にIT関連分野を中心とした高度な専門技術を有する人材の流動化が進展している。人材のグローバル・コンペティションという新たな時代へ移行しつつある。この環境の下で、企業は知識の生産性を向上させるために、国籍にかかわらずより優秀な研究者への需要を高めている。

また、科学技術政策研究所調査資料67「国立試験研究機関、特殊法人研究開発機関及び日本企業の研究開発国際化に関する調査研究」(平成 12 年)によれば、外国人研究者の参加が研究の成果に貢献することが報告されている。外国人研究者は異なる文化や考え方、経験等を持っており、参加した研究グループに知的な刺激を与え、知識の生産性の向上に寄与するものと考えられる。知識社会の進展と共に、外国人研究者の役割は大きくなっていくと考えられる。

(1) 我が国の外国人研究者数の推移と全体に占める割合

2002 年末現在、我が国における外国人研究者数は10,337人である(図 4-2-4)。ここでの外国人研究者数は、法務省の在留外国人統計、在留資格別外国人登録者数の中で、資格が教授(大学若しくはこれに準ずる機関または高等専門学校において研究、研究の指導又は教育をする活動)の者と研究(公私の機関との契約に基づいて研究を行う業務に従事する活動)の者の合計である。

経年変化を見てみると、我が国の研究者総数に対する外国人の比率が増加しており、1992 年の0.7%から 2002 年には1.4%になっていることがわかる。また、2002 年外国人研究者の内訳をみると、「教授」資格の研究者の方が7,751人で、「研究」資格の研究者3,369人より2倍以上である。また、1992 年から 2002 年の増加の程度は、「教授」3.0倍、「研究」2.5倍となっている。

これらの数値は、知識社会の進展に伴って、外国人研究者の役割が増大していることを示している。

これを国籍別の割合で見てみると、2002 年末時点で、中国が35.3%、米国12.3%、韓国・朝鮮11.0%、イギリス4.5%、インド4.8%の順になっている(図 4-2-5)。

また、資格が「教授」の外国人が比較的多いことから、組織種類別には、大学等での外国人研究者の受け入れが相対的に活発であることを示している。

(2) 米国での外国人研究者の状況

米国における博士号保持者のうち、27%の 19 万 2 千人が外国生まれである(図 4-2-6 (A))。分野別に見ると、工学が44.6%で最も多く、次にコンピューターサイエンス35.4%、物理29.3%、ライフサイエンス26.1%となっている。また、これを出生地別の分布をみると、上位に中国20%、インド16%、イギリス7%、台湾6%がある。日本は1%を占めている(図 4-2-6 (B))。

【図 4-2-6】 米国 外国人科学工学分野博士号保持者 (1999 年)


(3) 外国人研究者に関する問題点

我が国の外国人研究者の割合は増加しているが、いまだに1%程度である(図 4-2-4)。外国人研究者の採用についての問題点に関して民間企業の意見を見てみよう(図 4-2-7)。これによると、外国人研究者採用の問題点は、「採用に当たって能力の見極めが困難である」、「外国人研究者の能力を社内でうまく活かしきれない」、「言葉など日本人研究者とのコミュニケーションに問題がある」、等があげられている。これらにあるように、外国人の能力評価や、コミュニケーションなど、日本の企業は入り口のところで課題を抱えていることがわかる。

4.2.3 大学院教育の活用

前述の図 4-2-3 で参照した文部科学省「我が国の研究活動の実態に関する調査 平成 14 年度」の回答者は主に先端科学技術分野(ライフサイエンス、情報・通信、環境、材料・ナノテクノロジー、エネルギー等)に従事する現役の研究者である。回答者の最高学位の分布は、博士が60.1%、修士が17.2%で、合計77.3%が大学院レベルの教育を受けていることになる(図 4-2-8)。先端科学技術分野の研究者にとって、大学院レベルの教育は非常に重要であるといってよいであろう。


(1) 理工系大学院修了者数の推移

2003 年時点での修了者数は工学修士28,498人、工学博士3,212人、理学修士5,722人、理学博士1,500人である。理学及び工学系の大学院修了者数の推移を見てみる(図 4-2-9)。

1968 年から 2003 年の間での増加の度合いをみると、最も大きいのは、工学博士7.9倍、次に工学修士7.3倍、そして理学修士4.4倍、理学博士4.7倍となっている。

知識社会の移行の中で大学院教育への需要が増大していることがわかる。


(2) 社会人大学院生の増加

前出の「我が国の研究活動の実態に関する調査 平成 14 年度」の回答者(主に先端科学技術分野の研究者)のうち博士号取得者が60.1%で、その内訳は課程博士が27.6%、論文博士が32.5%である(図 4-2-8)。論文博士は、通常社会人が取得している。すなわち、このデータは研究者の博士号保持者のうち半数以上は、社会人になってから取得したことを示している。

知識生産のスピードが加速され、高度化・細分化されている知識社会では、研究者を含む社会人に新しい知識を供給するための大学院教育の需要が増大すると考えられる。

2003 年時点、理工系の大学院全学生数に占める社会人の割合は5.8%で、5,613人になっている。統計データを取り始めた 2000 年には、4.4%、3,966人であった。ここ数年の傾向ではあるが、理工系に占める社会人学生の割合及び絶対数ともに増加している(図 4-2-10)。

これをさらに学位レベルで社会人学生の割合を見てみる。 2003 年では、理工系の社会人大学院生の中で工学博士課程の人が3,249人で全工学博士課程学生に占める割合は24.7%である。これは理学博士の9.5%、工学修士の2.6%、理学修士の1.0%と比較するとかなり高い値といえよう。


(3) 博士課程修了者の課題

ここでは理工系の修士及び博士課程修了者の無業者(進学も就職もしていない者)の割合の推移を見る(図 4-2-11)。博士課程修了者の無業者数の割合が常に修士課程修了者のそれより高い。これは理学及び工学に共通している。

本来ならば、知識社会においては高度な知的訓練を受けた博士課程の修了者は、より活用されると考えられるが、現実は違っている。

原因の一つとして需給の調整機能が不十分ということが考えられる。例えば、理学博士課程の無業者の割合は毎年高い(一時6割程度になった)にもかかわらず(図 4-2-11)、修了者をコンスタントに供給し、増加傾向である(図 4-2-9)。需要と供給が十分に調整されていない。

次に、博士課程修了者について受け入れ側はどのように思っているのであろうか。文部科学省 「民間企業の研究活動に関する調査 平成 14 年度」(調査対象企業 2,007 社、有効回答 1,061 社)によると、博士課程修了の研究者(ポストドクター含む)の問題点は企業規模によって異なっている(図 4-2-12)。企業にとって一番の問題と思われるのは「博士課程修了の研究者、ポストドクターの能力を社内ではうまく活かしきれない」であり、資本金 100 億円未満の企業のうち約40%も占めている。一方、資本金 500 億円以上の企業は16.3%である。さらに、資本金 500 億円以上の企業の46.7%が博士課程修了の研究者(ポストドクター含む)に問題はないとしている。博士課程修了者の活用の問題は特に資本金が 500 億円未満の規模の企業に発生していると考えられる。

知識の生産・活用が重視される知識社会において博士課程修了者を十分に活用できないことは、大きな損失と考えられる。対応策の検討が不可欠であろう。


4.2.4 大学教員の出身校の多様化

知識社会では、教育や研究活動において、大学の役割はますます重要になってくると考えられる。大学教員の出身校の多様性は、これらの活動の創造性を向上させる一つの要素であると考えられる。このため、知識社会の進展に伴って、大学では教員の出身大学の多様化が進むと考えられる。大学教員の自校出身者の割合は、大学教員の出身校の多様化を計る尺度になると考えられる。

大学教員の自校出身者の割合の推移を見ると、我が国の大学全体平均では 1980 年 36.7% から 2001 年 34.0% と減少している (図 4-2-13 (A))。

この数値を専門分野別に見ると、工学、理学、社会科学が減少している。農学は多少減少している。ただし、保健は 54.0% (1980 年) から 55.9% (2001 年) へと増加している。

次に、大学種類別に見ると、各専門分野共通に国立大学教員の自校出身率が最も高く、公立が最も低いことがわかる。国立大学での改善の余地が相対的に大きいといえる(図 4-2-13 (B))。


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4.2.5 研究者労働市場の流動状況

知識社会においては、知識生産の担い手である研究者の能力を活用することがますます重要となってくる。研究者の労働市場の流動化は研究者の能力の活用に大きな影響を与えると考えられる。 2001 年度における研究者の流動性に関する本格的なデータが総務省によって初めてまとめられた。そのため現時点では 2 年間のデータしか蓄積されていない。よって経年変化はみることはできないが、2002 年度における研究者の労働市場の流動性についてデータを分析する。

組織種類別に、研究者の採用状況を見てみる(図 4-2-14)。採用は新卒採用と転入の二つからなっている。 2002 年度に全国で採用された研究者は60,371人である。そのうち転入は31,462人で、採用に占める割合は52.1%である。組織別に研究者の採用における転入の割合は企業等38.4%、非営利団体・公的機関78.5%、大学等64.0%となっており、企業が最も小さい。

次にこの転入した研究者がどこから来たのかを見る(図 4-2-15)。組織種類別に見ると、それぞれ転入してくる人は、比率は異なるが、同じ組織種類から最も多く来ることがわかる。すなわち、企業等に転入した研究者は、93.0%が企業等から、非営利団体・公的機関に転入した研究者は52.6%が非営利団体・公的機関から、大学等に転入した研究者のうち42.0%が大学等から転入している。

これら転入している研究者数が研究者全体のどのくらいの割合か見る。組織種類別では、企業等では2.6%、非営利団体・公的機関9.6%、大学等5.2%である(図 4-2-16)。全体では4.0%である。これらの割合の人たちが流入していることになる。企業等における流動性が低く、非営利団体・公的機関が高いことを示している。

知識社会への進展と共に、企業のマネジメントはどのように変化しつつあるのであろうか。

4.3.1 企業の研究開発戦略

文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査報告 平成 13 年度」(調査対象企業 1,993 社、有効回答 1,026 社)の中で、研究開発戦略の重点について、過去の実績と今後の予定について尋ねている。このデータを基に、知識社会の進展と共に、企業の研究開発戦略が何を重視しているのか見てみよう。

過去も今後も企業にとって重要なのは、「新規分野の研究開発に注力」、「国内の大学・公的機関との共同研究」、「研究開発部門内の構成等の組織改革」、「研究開発テーマの統廃合」である(図 4-3-1)。

今後さらに採用する企業が多くなるのは、主に外部との連携に関するもので、「アウトソーシング」、「国内異業種との戦略的提携」、「国内同業種との戦略的提携」、「海外の大学、公的機関、企業等の活用」である。また、選択している企業の割合は小さいが、増加率の高いのが、「ナレッジマネージャーの導入」である。

これらの傾向は知識社会における企業の研究開発戦略マネジメントの特徴を示していると考えられる。すなわち、知識社会においては、技術革新のスピードが加速され、かつ複雑多岐にわたってきており、全ての技術革新を企業が自前でやっていける時代ではなくなってきている。また、知的財産がますます重視され、価値の非常に高いものになってきている。このような環境下では、企業はいかに外部の研究機関を活用するか、また、他社に先んじて独自の技術や製品を多く生み出せるか、ということがマネジメント上の重要な課題となってくると考えられる。


4.3.2 研究人材のマネジメント

それでは具体的に企業は研究者の知識生産性の向上のために何をしているのであろうか。前述の図 4-2-12 で参照した文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査 平成 14 年度」(調査対象企業 2,007 社、有効回答 1,061 社)において、企業が研究者の知識生産のために工夫している項目について尋ねた結果を見てみる。

これによると、最も多いのは「学会や研究会等に出席しやすくしている」、「フレックスタイム、裁量労働制等、勤務時間をある程度研究者の自由にできる」、「社内の他部署の研究設備や機器などを容易に借りられる」となっている(図 4-3-2)。これらは、研究者の自主性や自由度を増やすということで共通しており、研究者の創造性を引き出すものと考えられる。


4.3.3 研究者を対象とした企業教育

企業による研究者への教育について見てみる。ここでは新入社員教育と専門分野の深化のための教育を比較する。これをみると、この二つの教育はその方法で大きく異なることがわかる (図 4-3-3)。

社内資源を使用した新入社員教育と比較して、専門分野の深化のための社員教育は、外部の機関をより多く利用している。具体的には、企業外での講習、出向、国内留学、海外留学、学位取得の奨励等がある。

これは、知識社会では知識生産のスピードが加速され、知識の高度化・細分化が進展しているため、社内の知識を受け継ぐだけでは不十分となっているためと考えられる。さらに、社内と異なる環境や考え方に接し、創造性を刺激することも知識の生産性の向上につながることが考えられる。


4.3.4 企業からの大学及び大学院への要望

企業からの大学や大学院への要望を見てみる。企業が大学や大学院に期待しているのは、「知識を与えるよりも、考える力をつけさせる」であり、74.5% の企業が望んでいる。続いて、「入試を単に知識の量を評価する形から、思考力、関心、素養などを多面的に評価する方式に変える」(53.8%) となっている (図 4-3-4)。新しい知識を生み出す能力に対するニーズが高いということができよう。

知識社会において、理想の研究者とはどのような研究者なのであろうか。前述の「我が国の研究活動の実態に関する調査 平成 14 年」(文部科学省)において「理想の研究者の素養・能力」について現役の研究者1,355人に尋ねている。これによると理想の研究者が持つべき素養・能力として選択された項目は多い順から、創造性(64.4%)、専門分野の知識(56.1%)、課題設定能力(53.7%)、探究心(53.1%)、課題解決能力(45.1%)、基礎的な知識(37.7%)、粘り強さ(32.5%)、バランス感覚・俯瞰的能力(21.6%)となっている(図 4-4-1)。これらの上位の項目を満たすような研究者が知識社会で求められる理想の研究者と考えられる。

これらの項目について、現在の若手の研究者がどのように評価されているか見てみる。同グラフの横軸が、若手研究者の能力の各項目に関する過不足の評価である。これによると、評価されているのは、専門分野の知識や協調性、そして基礎知識である。一方で不足しているとされているのは、課題設定能力や創造性である。これらは、多くの研究者が理想の研究者の素養・能力として選んだ項目であり、今後研究者を育成する時に深く認識する必要があろう。

以上、知識社会における研究者の状況と課題についてデータを通して概観してきた。これらのデータは研究者とそれを取り巻く環境が知識社会の人材基盤として発展する状況を明確に示している。同時に女性研究者、外国人研究者、博士号取得者等に多くの課題が存在することも明らかになった。これらの課題を解決することにより、今まで成長してきた知識社会を支える人材基盤がより一層充実し、知識社会のより大きな発展に結びつくと考える。

参考文献

  1. [1] D.C.ペルツ、F.M.アンドリュース 『創造の行動科学』 (兼子宙 監訳)、ダイヤモンド社、1971 年
  2. [2] 田中茂、根岸廣和、榊原清則 『国立試験研究機関、特殊法人研究開発機関及び日本企業の研究開発国際化に関する調査研究』、平成 12 年 3 月、科学技術政策研究所調査資料-67
  3. [3] 小林信一、斉藤芳子 『科学技術人材を含む高度人材の国際的流動性』、2003 年 3 月、科学技術政策研究所 調査資料-94
  4. [4] 知的財産戦略会議 『知的財産戦略大綱』、2002 年 7 月 3 日
  5. [5] 科学技術・学術審議会人材委員会 『国際競争力向上のための研究人材の養成・確保をめざして』、平成 15 年 6 月

科学技術に関連する人材の育成は、科学技術振興を図る上で最も重要な基盤のひとつである。本章では、学校教育における科学技術人材の育成について、小中高等学校における数学・理科教育の現状に関する国際比較、大学の学部別にみた志願・入学の状況、大学卒業後の産業別・職業別就職動向、大学院への進学状況等について紹介する。

図 5-1-0 は、予備知識として全体像を把握するために、学校教育における学生・生徒数の全体像を概念的に図示したものである。小学校の生徒数は 722.7 万人、中学校の生徒数は 374.8 万人、高等学校は 380.2 万人である (ただし本科のみ)。

一方、高等学校から大学・短期大学 (本科) への進学率は 44.6% であり、大学学部の学生数は 250.9 万人、短期大学については 24.1 万人で、自然科学系は修士課程学生数が 9.5 万人、博士課程学生数が 4.7 万人となっている。

5.1.1 第 3 回国際数学・理科教育調査 - 第 2 段階調査 -

- 第 2 段階調査 -

第 3 回国際数学・理科教育調査の第 2 段階調査 (TIMSS-R) は、国際教育到達度評価学会 (IEA) の計画の下で、1995 年に実施された第 1 段階調査を踏まえ、1998 年度の学年末に、世界 38 か国・地域で実施された。我が国では、全国 140 校の中学第 2 学年生約 5 千名を対象に、1999 年 2 月に調査が行われた。


中学第 2 学年の数学の得点に関しては、国際平均値は487点で、上位5か国・地域は図 5-1-1 のとおりだが、日本と台湾、香港との得点に有意差はない。

中学校理科の得点に関しては、国際平均値は 524 点で、上位 5 か国・地域は図 5-1-2 のとおりであり、理科においても我が国は上位に位置している。

しかし、勉強することに対する意欲、意識については、図 5-1-3 及び図 5-1-4 に見るとおり、我が国の半数以上の生徒は、中学の時点からすでに、希望の大学に入るためだけに (しかも、希望の職業につくためというわけではなく)、数学と理科の勉強をしていることがわかる。



5.1.2 OECD 生徒の学習到達度調査 (PISA)

OECD が実施しているPISAは、将来の生活において必要とされる知識や技能が、義務教育を終えた段階でどの程度身に付いているかを調べることを目的としている。PISA2000 では、2000 年に世界 32 か国において、読解リテラシー、数学的リテラシー、科学的リテラシーについて調査された (国際比較の対象は 27 か国)。我が国では全国 133 校の高等学校第 1 学年の生徒 5,300 人あまりが参加した。

総合読解力は文章を読んで理解し、利用し、考える能力を調べたもので、参加国の平均値を500点に換算して比較した結果、1 位はフィンランドの 546 点、以下カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、アイルランド、韓国、イギリス。日本は 522 点で 8 位であるが、2 位から 8 位の平均得点に有意な差は見られない。

数学的リテラシー (図 5-1-5 )、科学的リテラシー (図 5-1-6 ) も、共に数学、科学の知識を理解し、活用できる能力を見ているのだが、総合読解力とある程度の相関がある。数学的リテラシーでは、日本がトップではあるが、2 位及び 3 位との間に有意差はない。科学的リテラシーのトップ韓国と 2 位の日本との間にも有意差はない。

図 5-1-7 は、総合読解力の得点と数学的リテラシーの得点、及び科学的リテラシーの得点の平均得点 (全体の平均得点は 500 点) と GDP との関係を示した図である。経済的な豊かさの指標である GDP の規模が大きいほど、学習到達度すなわち学習成果も良好であることがわかる。これは、国の豊かさと教育程度は相関するであろうという一般的な予想に合致する結果である。ただし、GDP 値が最も高い米国は回帰直線の下に位置している一方で、GDP 値がさほど高くない韓国は、回帰直線のかなり上に位置している。フィンランド、日本も、回帰直線のかなり上に位置している。




5.1.3 平成 13 年度教育課程実施状況調査

国立教育政策研究所は、2002 年 1 月から 2 月にかけて、学習指導要領における各教科の目標や内容がどれくらい実現されているかを把握するための調査を行った。調査に参加したのは、全国 3,532 校の小学校生徒 (第 5 学年と第 6 学年) およそ 20.8 万人、2,539校の中学校生徒 (3学年) およそ 24.3 万人である。ここでは、算数・数学と理科に関する調査結果について紹介する。

図 5-1-8 にある設定通過率とは、標準的な授業が行われた場合に想定される正答率で、それとの比較がこの図である。小学校第5、第6学年の理科は好成績だが、中学第1学年と第2学年の理科は設定通過率を下回っている。算数・数学については、小学校第5学年と中学第1学年で設定通過率を下回った問題が多く、ほかは設定通過率をほぼ満たしているようである。

図 5-1-9 は、1994〜 96 年にかけて行われた前回調査と同じ問題に対する正答率の比較である。

理科については、小学第6学年で前回を上回る好結果が得られており、中学第3学年でも、前回を上回る問題数が、前回を下回った問題数を若干上回っている。一方、中学第2学年では、前回を下回った問題数が、上回った問題数のほぼ2倍に達しており、中学第1学年では、前回を上回った問題数が少なかった。

算数・数学については、正答率が前回を下回る問題数が、前回を上回る問題数よりもすべての学年で多くなっている。

今回の調査では、学力のほかに、生徒たちの学習意欲などを調べる調査も実施されている。図 5-1-10 〜12は、それぞれ理科の勉強をめぐる生徒たちの意識や意欲を調べる質問に対する回答結果である。

図 5-1-10 は、理科に対する学習意欲を見ている。全般的な傾向として、すべての項目で、学年が進むほど意識の低下が見られる。理科の勉強が大切であると思っている生徒と、理科の勉強が好きな生徒は比較的多い。ただし、理科の勉強がふだんの生活や社会で役立つと思っている生徒は少ないこともわかる。

図 5-1-11 は、理科を勉強する目的に関する質問結果である。環境問題や国の発展にとって重要だからという答が70〜80%と多数を占めているのに対し、日常生活や将来の職業選択など、個人的な動機による意識が低いことがわかる。また、科学的な思考を養う上で理科の勉強が役立つと思っている生徒の少なさも目立つ。

図 5-1-12 は、理科の学習施設やメディアの利用度、および実験・観察に関する質問結果である。動物園や水族館に行くのが好きな生徒は、中学第3学年になっても70%を越えているのに対し、博物館や科学館に行くのが好きな生徒は、小学第5学年の74%が、中学第3学年では52%にまで下がっている。それに対して、実験や観察が好きな生徒は、全学年を通じて、ほぼ70%を越えている。

図 5-1-13 によれば、理科の学習態度については、小学第5学年でばらついていた割合が、中学第3学年では収束している。

以上、小中高生の数学 (算数) ・理科教育の現状に関する国際調査を中心に見てきたが、我が国の現状は、試験の成績はおおむね良いものの、学習意欲は必ずしも高くはなく、学習態度も、高学年になるほど自主性の低下が見られることがわかる。

5.2.1 志願者数及び入学者数の動向

(1) 志願者数の動向

大学への入学志願者は一般に複数の大学学部に願書を提出する。1人の志願者が提出する願書の数が併願数であり、その合計が延べ入学志願者数である。

1965 年度には 120.3 万人であった大学 (全学部) への延べ入学志願者数は、進学意欲の高まり等を背景に 1970 年代を通じほぼ一貫して増加し、1978 年度には 312.7 万人にまで増加した。

1979 年度には、国立大学の入試制度が、それまでの「一期校、二期校制度」から「共通第一次学力試験制度」に変更され、国立大学の受験機会が複数から単数となったことを受け、延べ入学志願者数は 200 万人台後半にまで減少した。その後、1987 年度から再び国公立大学の受験機会が複数となったことや進学意欲の高まり等を受け、延べ入学志願者数は急速に増加を示し、1992 年度には 506.3 万人にまで増加した。なお、1989 年度からは、「共通第一次学力試験」に代えて「大学入試センター試験」が実施されている。

しかしながら、最近は18歳人口の減少等から延べ入学志願者数は減少傾向で推移しており、1998 年度に 400 万人を割り込んだが、2001 年度以降やや増加傾向に転じ、2003 年度には 379.7 万人となっている。

理工系学部と経済系学部それぞれの延べ入学志願者数と倍率の推移をみたものが図 5-2-1 である。これによると、1970 年代末頃に理工系学部の志願者数及び倍率が減少したのに対し、経済系学部については大きな落ち込みはみられなかった。 1987 年度から 1990 年代初頭にかけては、経済系学部の志願者数及び倍率が大幅に伸び、最近は逆に大きく低下しているのに対し、理工系学部については、経済系学部に比べると大きな変動はみられない。 1998 年度以降、経済系学部と理工系学部の志願者数及び倍率は、ほぼ同水準で推移している。


なぜグリーンビル、SC

延べ入学志願者数の学部別の構成比の推移をみたものが図 5-2-2 である。これによると、1970 年代と 1980 年代後半の時期において、延べ入学志願者数に占める理工系学部の割合の低下、経済系学部の割合の上昇といういわゆる「理工系離れ」の現象がみられ、1980 年代前半及び 1990 年代半ば頃においては逆の傾向がみられることが窺える。 1970 年代の「理工系離れ」は石油危機の影響を受けて製造業等が業況悪化したことを反映しており、また、1980 年代後半の「理工系離れ」はバブル好況期における経済系学部へのシフトによるものと考えられる。もっとも、最近は理工系学部及び経済系学部ともに低下傾向にある。一方、延べ入学志願者数に占める法学系学部の割合は、多少の変動はあるものの、ほぼ一貫して10%前後で推移している。

先に述べたように、大学への延べ入学志願者数は入試制度の変更によっても影響を受けつつ推移してきたが、学部別にみた場合は、その時の経済情勢等にも大きく影響を受けているものと考えられる。


(2) 入学者数の動向

厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2000 年には1億2, 693 万人であった我が国の人口は、2006 年に1億2, 774 万人でピークに達した後、長期の減少過程に入る。これは、1970 年代半ばから人口を一定の規模で保持する出生率水準 (合計特殊出生率で 2.08 前後の水準) を大きく割り込んでいるためである。18歳人口については、1991 年における 206.8 万人をピークに既に減少傾向に転じている。今後も減少傾向で推移するものとみられ、例えば 2010 年には 121.9 万人と、ピーク時の59%の水準まで減少するものと推計されている (図 5-2-3 )。

このような状況のなかで、大学学部への入学者数は、進学意欲の高まりと定員拡大の下、1980 年度の 41.2 万人から 2003 年度には 60.5 万人へと約 1.5 倍の水準へと増加している。この結果、進学率 (18歳人口に対する大学入学者数の比率) は、同時期に 25.9% から 41.8% へと、15.9 ポイントの上昇を示している。

この入学者数の推移を、やや長期的に、かつ主要学科別にみたものが図 5-2-4 である。これによると、2003 年度において最も入学者数が多いのは社会科学系の 23.3 万人で全体の 38.5% を占めており、次いで工学系の 10.4 万人 (17.1%)、人文科学系の 9.9 万人 (16.4%) 等となっている。また、理学系は 2.1 万人で 3.4% を占めている。

次に、入学者数の推移を関係学科別にみると、社会科学系及び理工系は約 1.4 倍とほぼ同程度の増加を示し、保健系は約 1.7 倍、人文科学系は約 1.8 倍とやや大きく増加しているのに対して、農学系は約 1.1 倍でほとんど増加していないが、主要学科別の構成比には、総じて大きな変化はみられない。



大学への入学者数の推移をみた場合、女子の増加が著しいという特徴がある。 1980 年度には 9.5 万人に過ぎなかった女子の大学入学者数は、2003 年度には 24.7 万人へと約 2.6 倍の水準に拡大している。この結果、入学者数に占める女子の割合は、同期間に 23.1% から 40.8% へと拡大した (図 5-2-5 )。

この状況を学部別にみると、理工系への女子の入学者数は、1980 年度の 0.4 万人から 2003 年度の 1.7 万人へと、約 4.4 倍と大きく増加している。この結果、理工系の入学者数に占める女子の割合は、同期間に 4.1% から 13.6% へと高まったものの、他の学部に比べれば低い水準に留まっている。また、1990 年代前半まで、理工系の入学者に占める女子の割合は上昇傾向で推移してきたが、最近はやや頭打ちの傾向がみられる。

5.2.2 自然科学系学科卒業生の進路

2003 年 3 月に大学 (全学部) を卒業した者の数は 54.5 万人であるが、この内訳をみると、大学院等へ進学した者が 6.2 万人 (11.4%)、就職者が 30.0 万人 (55.1%)、臨床研修医が 0.8 万人 (1.5%)、一時的な仕事に就いた者及び無業者 (進学も就職もしていない者) が 14.8 万人 (27.1%)、その他不詳者等が2.7 万人 (4.9%) となっている。

自然科学系学科 (理学、工学、農学及び保健系) についてみると、卒業者 16.7 万人のうち進学者が 4.6 万人 (27.7%)、就職者が 8.4 万人 (50.3%)、臨床研修医が 0.8 万人 (4.9%)、無業者等 (「一時的な仕事に就いた者」及び「その他不詳者等」を含む。以下、本節において同じ。) が 2.9 万人 (17.2%) となっており、全学部平均に比べ、進学者の割合が高く無業者等の割合が低くなっている。

以下、自然科学系学科の卒業生について、その進路の状況について概観する。

(1) 進学者、就職者の割合等の推移

2003 年 3 月の理工系の卒業者は 12.1 万人で、うち進学者が 3.8 万人 (31.5%)、就職者が 6.1 万人 (50.7%)、無業者等が 2.2 万人 (17.9%) となっており、農学系の卒業者は 1.6 万人で、うち進学者 0.4 万人 (26.1%)、就職者 0.8 万人 (51.7%)、無業者等 0.4 万人 (22.2%) となっている。一方、保健系の卒業者は 3.0 万人で、うち進学者 0.4 万人 (13.5%)、就職者 1.5 万人 (47.9%)、臨床研修医 0.8 万人 (26.9%)、無業者等 0.4 万人 (11.7%) となっており、他の自然科学系学科とは異なり、無業者等の割合が低くなっている。

理工系、農学系、保健系の別に卒業生の進路 (構成比) の推移をみたものが図 5-2-6 (A)、(B)、(C)である。

まず、理工系の推移をみると、第一次石油危機が起こった 1970 年代中頃に就職者の割合がやや低下したが、これは、この時期に無業者等の割合が拡大したことに対応している。その後、就職者の割合は、1980 年代には概ね80%前後で推移したが、1990 年代に入り大きく低下した。これに対して、この期間の無業者等の割合の推移をみると、バブル好景気の影響により、1980 年代以降低下傾向で推移してきた無業者等の割合が、バブル崩壊後の景気悪化の影響で、1990 年代には大きく上昇している。就職者及び無業者等の割合は、このように経済情勢の影響等を受け変動しているが、進学者の割合は、1970 年代以降ほぼ一貫して上昇してきている。

また、農学系も、長期的な傾向として進学者の割合が上昇傾向にある点や、1990 年代に入って就職者の割合が大きく低下し、これと対照的に無業者等の割合が上昇している点では、理工系の傾向と同様である。しかし、就職者の割合の推移を詳細にみると、二度の石油危機後の急低下やバブル好況期の急上昇など、理工系に比べて経済情勢の影響が大きいと考えられる。

一方、保健系についてみると、進学者の割合がほぼ一貫して上昇傾向にある点は、他の自然科学系学科と同様である。しかし、就職者及び無業者等については、1990 年代後半から就職者の割合が上昇し、また、2000 年以降、無業者等の割合が急低下しているなど、他の自然科学系学科とは異なる傾向を示している。

【図 5-2-6】 学部卒業生の卒業後の進路
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-2-6

(2) 産業別の就職割合

2003 年 3 月に自然科学系学科を卒業し就職した者は 8.4 万人であるが、その主要産業別の構成比をみると、サービス業関連 (2002 年 3 月に改訂された日本標準産業分類の大分類項目のうち「情報通信業」、「飲食店, 宿泊業」、「医療, 福祉」、「教育, 学習支援業」、「複合サービス業」、「サービス業 (他に分類されないもの) 」を合わせたものをいう。以下同じ。) への就職者が 45.3%、製造業が 24.3%、金融・保険業が 1.4% 等となっている。

理工系、農学系、保健系の別に産業別の就職割合の推移をみたものが図 5-2-7 (A)、(B)、(C)である。なお、日本標準産業分類が 2002 年 3 月 (同年 10 月1日より適用) に大改訂されたことに伴い、2003 年から「学校基本調査」の産業分類も大きく変更されているため、以下では、1968〜 2002 年までの産業別就職割合の推移をみることとする。

まず、理工系の推移をみると、1970 年に 67.5% であった製造業への就職割合は、1979 年に一旦 43.2% にまで低下した後、1980 年代から 1990 年代初頭には50%を超える水準で推移してきたが、1990 年代半ば以降再び大きく低下し、2002 年には 31.5% となっている。一方、サービス業への就職割合は、この間ほぼ一貫して上昇傾向で推移し、特に、1995 年以降の上昇が著しい。このような状況から、2002 年に初めてサービス業への就職割合が製造業を上回った。これは、経済のソフト化、サービス化等の影響を受け、情報サービス業等への就職割合が上昇していることに起因するものと考えられる。なお、1990 年には 2.8% であった金融・保険業への就職割合は、2002 年には 1.6% にまで低下している。

次に、農学系をみると、製造業及びサービス業への就職割合の推移は、理工系とほぼ同様の形を示しており、2002 年にはサービス業への就職割合が製造業への就職割合を上回った。

一方、保健系は、他の自然科学系学科と異なり、医療業関連への就職者が多いため、一貫してサービス業への就職割合が製造業への就職割合を上回っている。特に、1990 年代以降、製造業への就職割合が急低下したのと対照的にサービス業への就職割合が急上昇しているため、両者への就職割合の差は一段と大きくなっている。

【図 5-2-7】 学部卒業生の産業別の就職状況
注:
  • <サービス業>

    2003 年の値は、改訂後の産業大分類のうち、従来の大分類項目「サービス業」に類似した項目 (「情報通信業」、「飲食店, 宿泊業」、「医療, 福祉」、「教育, 学習支援業」、「複合サービス業」、「サービス業 (他に分類されないもの) 」) の合計を用いた。本文では、これら 6 項目を合わせたものを「サービス業関連」としている。

    なお、「サービス業関連」には、従来の「サービス業」には含まれていなかった「通信業」や「飲食店」等が含まれている。

  • <製造業、金融・保険業>

    日本標準産業分類大改訂後も大分類自体に変更がないこれらの産業については、改訂後の大分類項目「製造業」、「金融・保険業」の 2003 年の値を掲載した。

    ただし、従来の大分類項目「製造業」に含まれていた「新聞業」及び「出版業」 (小分類項目) は、改訂後の日本標準産業分類では、大分類項目「情報通信業」に分類されている。

資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-2-7

(3) 職業別の就職割合

2003 年 3 月に自然科学系学科を卒業し就職した者は 8.4 万人であるが、その主要職業別の構成比をみると、専門的・技術的職業従事者が 73.7% と大半を占めており、次いで、販売従事者が 10.3%、事務従事者が 7.2% 等となっている。専門的・技術的職業従事者の内訳をみると、機械・電気技術者や情報処理技術者等の技術者が 53.9%、保健医療関係従事者 (医療従事者) が 16.0%、教員が 1.5%、科学研究者が 0.5%となっている。

理工系、農学系、保健系の別に主要職業別の就職割合の推移をみたものが図 5-2-8 (A)、(B)、(C)である。

まず、理工系の専門的・技術的職業従事者についてみると、一貫して高水準で推移しているが、1971 年に 92.0% であった就職割合は、1970 年代に大きく低下し、1970 年代後半には80%を下回っている。その後、1980 年代には上昇したものの、1990 年代に入って再び低下傾向を示しており、2003 年には 73.0% になっている。このうち技術者の推移は専門的・技術的職業従事者 (全体) の推移と同じ形を示している。これに対して、教員の推移についてみると、1970 年代にやや上昇したものの 1980 年代半ば以降は一貫して低下傾向を示している。このように専門的・技術的職業従事者が近年低下傾向を示しているのと対照的に、販売従事者は増加傾向を示しており、2003 年には10%を上回っている。

農学系は、他の自然科学系学科に比べて一貫して専門的・技術的職業従事者の割合が低く、1996 年以降50%を下回る水準で推移しているのに対して、同期間の事務従事者及び販売従事者はいずれも20%前後で推移している。もっとも、専門的・技術的職業従事者のうち技術者の割合が最も高いこと、1980 年代半ば以降、教員の割合が一貫して低下傾向を示していることは、理工系と同様である。

【図 5-2-8】 学部卒業生の職業別の就職状況
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-2-8

保健系の専門的・技術的職業従事者の割合は、全期間を通じほぼ一貫して90%を上回る高水準で推移している。このうち、教員の割合が 1970 年代後半以降ほぼ一貫して低下傾向にあることは、他の自然科学系学科と同様である。しかし、他の自然科学系学科とは異なり、医療従事者の割合が最も大きく、最近では80%を上回る高水準で推移している。

5.2.3 大学学部教育における科学技術人材の育成(まとめ)

本節において、自然科学系学科への入学者数や卒業後の進路等に関するデータを分析した結果をまとめると、以下の通りである。

まず、大学 (全学部) への入学者数が年々増加傾向にあることは、社会経済の高度化・複雑化に伴って、大学教育への期待が高まっていることの現れといえる。

次に、自然科学系学科の卒業生の進路についてみると、大学院等への進学者の割合が、全学科平均に比べて極めて高くなっている。これは、自然科学系の分野においては、より高度な専門的知識・能力を求める傾向が強いことの現れと考えられる。

また、自然科学系学科卒業生に占める製造業への就職割合は、理工系及び農学系では、経済のソフト化などの影響を受けて 2002 年にはサービス業を下回る水準にまで低下している (図 5-2-7 参照)。一方、後出の 5.3 節をみると、理工系及び農学系の大学院修士課程修了者については、製造業への就職割合が依然として高い。このように、理工系及び農学系において、修士課程では製造業への就職割合が高いのに対して、学部では製造業への就職割合がサービス業を下回ったのは、近年の科学技術・学術研究の進展や急速な技術革新に伴い、製造業では、新商品開発等の場面で、高度な専門的知識・能力が要求されるようになったことにも起因すると考えられる。

以上から推察するに、自然科学系の分野においては、主として大学院を中心として、高度な専門的知識・能力を有する科学技術人材の養成がなされるのに対して、学部教育では教養教育及び専門分野の基礎的教育を行うことにより、専門的素養を涵養することに重点が置かれているものと考えられる。

5.3.1 入学者数の動向

(1) 修士課程

2003 年度の大学院修士課程入学者数は、全体で 7.6 万人となっている。主要専攻別の内訳をみると、工学系が 3.1 万人 (41.5%) と最も大きく、次いで社会科学系 1.0 万人 (12.6%)、理学系 0.7 万人 (9.1%) となっている。

大学院修士課程への入学者数の推移をみたものが図 5-3-1 である。 1980 年度には 1.7 万人であった入学者数は、1985 年度には 2.4 万人、さらに 1990 年度には 3.1 万人へと大きく増加した。さらに、1990 年代に入ってからは更に増勢を強めたが、最近はやや伸びが鈍化している。

1990 年度以降の伸びについてみると、1990〜 2003 年度にかけて全体の入学者数は 2.5 倍へと増加している。主要専攻別には、保健系が 3.7 倍と最も大きく伸びており、理学系及び工学系は 2.1 倍と、全体の伸びをやや下回っている。

しかしながら、この間の伸びに対する寄与率でみると、入学者数の多い工学系が37%、理学系が8%と、理工系で全体の伸びの約半分を占めている。

(2) 博士課程

次に大学院博士課程入学者数をみると、2003 年度には全体で 1.8 万人となっている。主要専攻別の内訳を大きい順にみると、保健系が 0.6 万人 (32.9%)、工学系 0.4 万人 (19.6%)、社会科学系 0.2 万人 (9.3%)、理学系 0.2 万人 (9.1%) となっている。

図 5-3-2 は、博士課程への入学者数の推移をみたものである。これによると、1980 年度には 0.5 万人、1985 年度には 0.6 万人、1990 年度には 0.8 万人へと、修士課程入学者と同様、大きく増加した。 1990 年代に入ってから更に増勢を強めたが、最近はやや伸びが鈍化しており、修士課程入学者とほぼ同じ動きを示している。

2003 年度の入学者数は 1990 年度の 2.3 倍で、これも修士課程入学者とほぼ同程度の伸びである。主要専攻別には、社会科学系の伸びが 2.8 倍と最も大きく、工学系 2.6 倍、理学系 1.8 倍となっている。

また、この間の伸びに対する寄与率をみると、工学系が21%、理学系が7%と、理工系で全体の伸びの約3割を占めている。


5.3.2 大学院への進学率の動向

以上のように、近年において大学院入学者数が大きく伸びている状況がみられるが、以下、理工系の進学率の推移をみることとする (図 5-3-3 )。

まず、理学系についてみると、1970 年代から 1980 年代半ばまでは、学部から修士への進学率 (修士進学率) は15〜20%程度とほぼ一定の水準で推移するなかで、修士課程から博士課程への進学率 (博士進学率) は、50%を超える水準から約30%の水準にまで低下した。その後、1995 年頃までは、博士進学率は概ね30%台前半の水準で推移する一方、修士進学率は、約20%から30%台半ばの水準にまで上昇した。また、1990 年代後半から博士進学率は再び低下し、2002〜 2003 年には25%程度にまで落ち込んでいるのに対して、修士進学率は更なる上昇傾向を示し、40%の水準に達している。この背景には、近年、企業において、新製品開発等の即戦力としての修士に対するニーズが高まったことが、一因として考えられる。


工学系については、いずれの進学率も理学系に比べ相対的に低いものの、1970 年代に博士進学率が低下し、1980 年代以降、修士進学率が上昇しているなどの点では、ほぼ同じ動きを示している。


5.3.3 大学院修了者の就職状況

(1) 産業別の就職状況

① 修士課程

2003 年 3 月に自然科学系の大学院修士課程を修了した者の数は 4.1 万人で、その内訳をみると、進学者が 0.5 万人 (13.1%)、就職者が 3.2 万人 (76.4%)、無業者が 0.4 万人 (8.8%)、その他不詳者等が 0.1 万人 (1.7%) となっている。

このうち、就職者 3.2 万人について、主要産業別の構成比をみると、製造業が 56.7% と大きな部分を占めており、次いで、サービス業関連が 27.3%、建設業が 4.5% 等となっている。

理工系、農学系、保健系の別に主要産業別の就職割合の推移をみたものが図 5-3-4 (A)、(B)、(C)である。

まず、理工系の推移をみると、製造業への就職割合は、第一次石油危機後の 1970 年代中頃を除き、1994 年までは概ね70%台で推移していたが、1995 年以降、60%台前半へと落ち込んだ。これに対応するように、近年、サービス業への就職割合が上昇しており、2000 年以降は18%を超える水準で推移している。

一方、農学系についてみると、1980 年代まで、製造業への就職割合とサービス業への就職割合の差は理工系の場合と比べてあまり大きくなく、1980 年代半ばには両者の就職割合が拮抗していた。このように 1980 年代半ばにサービス業への就職割合が上昇したのは、この間、獣医学研究科の修士課程修了者数が大きく増加し、これらの者の多くがサービス業に分類される「獣医業を行う事業所」等へ就職したことによるものといえる。 1990 年代初頭に製造業への就職割合が急上昇したのに対応してサービス業への就職割合が急低下したため、近年、両者の就職割合の差は大きくなっている。

また、保健系についてみると、以前は製造業への就職割合が最も大きかったが、1990 年代に入り、製造業への就職割合が急低下したのに対応してサービス業への就職割合が急上昇しており、2000 年にはサービス業への就職割合が製造業への就職割合を上回った。

【図 5-3-4】 修士課程修了者の産業別の就職状況
注:
  • <サービス業>

    2003 年の値は、改訂後の産業大分類のうち、従来の大分類項目「サービス業」に類似した項目 (「情報通信業」、「飲食店, 宿泊業」、「医療, 福祉」、「教育, 学習支援業」、「複合サービス業」、「サービス業 (他に分類されないもの) 」) の合計を用いた。本文では、これら 6 項目を合わせたものを「サービス業関連」としている。

    なお、「サービス業関連」には、従来の「サービス業」には含まれていなかった「通信業」や「飲食店」等が含まれている。

  • <製造業、金融・保険業>

    日本標準産業分類大改訂後も大分類自体に変更がないこれらの産業については、改訂後の大分類項目「製造業」、「金融・保険業」の 2003 年の値を掲載した。

    ただし、従来の大分類項目「製造業」に含まれていた「新聞業」及び「出版業」 (小分類項目) は、改訂後の日本標準産業分類では、大分類項目「情報通信業」に分類されている。

資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-3-4

② 博士課程

2003 年 3 月に自然科学系の大学院博士課程を修了した者の数は 1.0 万人で、その主な内訳をみると、就職者が 0.6 万人 (60.9%)、無業者 (図 5-3-6 で専攻別に比較) が 0.3 万人 (31.2%) となっている。

就職者 0.6 万人の産業別の内訳は修士課程とはかなり様相を異にしており、最も多いのがサービス業関連で 77.0%、次いで製造業が 14.1% となっている。

理工系、農学系、保健系の別に主要産業別の就職割合の推移をみたものが図 5-3-5 (A)、(B)、(C) である。

まず、理工系の推移をみると、変動はあるものの長期的にみてサービス業への就職割合は低下傾向にあり、近年、50%を下回る水準で推移している。これに対して、製造業への就職割合は、1970 年代から 1980 年代前半までは上昇傾向にあったが、その後、ほぼ横ばいで推移している。もっとも、製造業への就職者数自体は、博士課程修了者数の増加に伴い、ほぼ一貫して増加傾向にある。

農学系についてみると、1970 年代から 1980 年代初頭にかけて、サービス業への就職割合が低下したのに対応して製造業への就職割合が上昇したが、1990 年代後半以降、サービス業への就職割合は上昇傾向にある。

一方、保健系では、医療業や教育業等のサービス業への就職割合が一貫して90%を超える水準で推移している。

【図 5-3-5】 博士課程修了者の産業別の就職状況
注:
図 5-3-4 と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-3-5

③ 博士課程修了者に占める無業者の割合

博士課程修了者のうち無業者の割合の推移をみると、1970 年代後半には理学系で約60%、農学系で約55%、工学系で約30%と一時高い水準にあったものの、その後は概ね低下傾向で推移してきた (図 5-3-6 )。しかしながら、1990 年代後半に入り経済情勢が悪化するなかで再び上昇している。

一方、保健系の無業者の割合については、1970 年代に急低下した後は上昇傾向にあるものの、依然として、自然科学系の他の専攻と比較すると低い水準にとどまっている。

なお、「平成 14 年度学校基本調査報告書」によると、専攻別の詳細は明らかでないが、博士課程修了者全体についてみると、無業者の中には、「外国の学校等への入学者、研究生として学校に残っている者」や「進学準備者・就職準備者」が38%も含まれているので、いわゆるポスドクの多くもここに含まれているものと考えられる。


(2) 職業別の就職状況

① 修士課程

2003 年 3 月に自然科学系の大学院修士課程を修了し就職した者の数は 3.2 万人であるが、その主要職業別の構成比をみると、専門的・技術的職業従事者が 90.2% と大多数を占めており、そのなかでも、機械・電気技術者や情報処理技術者等の技術者が 76.4% を占めている。

理工系、農学系、保健系の別に主要職業別の就職割合の推移をみたものが図 5-3-7 (A)、(B)、(C)である。

まず、理工系の専門的・技術的職業従事者についてみると、就職割合は一貫して高水準で推移しており、また、就職者数自体もほぼ一貫して増加している。このうち、技術者の割合は全期間を通じて80%前後の高水準で推移しているのに対して、教員の割合はほぼ一貫して低下傾向を示しており、近年、2%程度の低水準で推移している。また、科学研究者の割合は、1970 年代後半から 1980 年代前半に上昇したが、1980 年代半ばに減少し、その後はほぼ横ばいで推移している。

農学系についてみると、他の自然科学系に比べて一貫して専門的・技術的職業従事者の割合が低く、特に、1997 年以降、80%を下回る水準にまで低下している。その内訳をみると、1970 年代から 1980 年代初頭まで50%前後で推移していた技術者が、1984〜 1989 年に40%を下回る水準にまで落ち込んだが、その後60%前後まで上昇しほぼ横ばいで推移している。一方、医療従事者は、1984〜 1989 年のみ就職割合が高くなっている。このように1984〜 1989 年に医療従事者の割合が高くなっているのは、この間、獣医学研究科の修士課程修了者数が大きく増加し、これらの者の多くが獣医師等 (医療従事者) になっていることによる。これは、1984 年 4 月1日から、学校教育法の改正により獣医学部の修業年限が 6 年となり、また、1990 年 4 月1日から、大学院設置基準の改正により獣医学研究科の修士課程が廃止され、博士課程の修業年限が 4 年となったことに伴う、一時的な傾向といえる。なお、専門的・技術的職業従事者の割合が近年低下傾向を示しているのと対照的に、事務従事者の割合は増加傾向を示しており、最近では10%を超える水準で推移している。

一方、保健系についてみると、専門的・技術的職業従事者の割合は、全期間を通じほぼ一貫して95%を上回る高水準で推移している。その内訳をみると、技術者が長期的には低下傾向にあるのと対照的に、医療従事者は上昇傾向にある。また、科学研究者は、1980 年代から 1990 年代半ばにかけて上昇したが、最近、急激に低下している。

なお、教員については、全ての自然科学系専攻で低下傾向にあるが、保健系では、最近やや上昇してきている。

【図 5-3-7】 修士課程修了者の職業別の就職状況
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-3-7

② 博士課程

2003 年 3 月に自然科学系の大学院博士課程を修了し就職した者の数は 0.6 万人であるが、その主要職業別の構成比をみると、専門的・技術的職業従事者が 96.5% と大多数を占めており、この就職割合は、一貫して高水準で推移している。

理工系、農学系、保健系の別に主要職業別の就職割合の推移をみたものが、図 5-3-8 (A)、(B)、(C)である。

まず、理工系の専門的・技術的職業従事者の割合についてみると、1974 年及び 1975 年以外は、90%を超える高水準で推移している。この内訳をみると、教員の割合は、1960 年代には70%を超える高水準であったが、1970 年代後半以降ほぼ一貫して低下傾向を示しているのに対して、科学研究者及び技術者の割合は、ほぼ一貫して上昇傾向を示している。このため、最近では、技術者や科学研究者の割合が教員を上回っている。これは、近年、博士課程修了者数が著しく増加しているのに対して、大学教員等のポスト数はあまり増加していないことに起因すると考えられる。

農学系についてみると、1990 年以前は、博士課程修了者数が少なかったことも影響して、就職割合の変動が激しくなっているが、1990 年以降、科学研究者の割合は上昇傾向にあり、技術者はほぼ一定の割合で推移している。

一方、保健系についてみると、医療従事者の割合が圧倒的に大きく、最近では70%前後で推移しているのに対して、技術者の割合は1〜2%と極めて低く、また、科学研究者の割合は、上昇傾向にあるものの、2003 年においても10%程度の水準に留まっている。

なお、教員については、すべての自然科学系の専攻でほぼ一貫して低下傾向にある。

【図 5-3-8】 博士課程修了者の職業別の就職状況
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:
表 5-3-8

5.3.4 大学院教育における科学技術人材の育成(まとめ)

本節において、自然科学系の大学院修士課程・博士課程への入学者数や課程修了後の就職状況等に関するデータを分析した結果について、修士課程・博士課程毎にまとめる。

(1) 修士課程

まず、修士課程への入学者数や修士進学率はほぼ一貫して増加しており、科学技術・学術研究の急速な進展や社会経済の高度化に伴って、大学院における専門的教育への社会の期待は高まっているものといえる。

次に、自然科学系の大学院修士課程修了者の就職状況をみると、大学学部とは異なり、保健系を除き、依然として製造業への就職割合が最も高くなっている (図 5-3-4 参照)。また、専門的・技術的職業への就職割合も、農学系を除き、高水準で推移している (図 5-3-7 参照)。これらから、近年の急速な技術革新や産業構造の変化に伴い、新製品開発等の場面において、企業の修士課程修了者に対する需要の高さが窺われる。

このように、自然科学系分野においては、専門的知識・能力を有する科学術人材の養成のため、大学院修士課程の役割が重要となっている。

(2) 博士課程

他方、自然科学系の大学院博士課程についてみると、先端科学技術分野を中心により高度な教育研究が求められていることから、博士課程への入学者数は、修士課程への入学者数と同じく、ほぼ一貫して増加している。

しかし、自然科学系の大学院博士課程修了者の進路をみると、修士課程修了者とは異なり、無業者の割合が極めて高くなっている。この中にはいわゆるポスドクも含まれていると考えられるが、そうであるとしてもやはり無業者の割合が高いと言い得る。

また、修士課程修了者とは異なり、理工系及び農学系を含めて、製造業よりも教育、医療業等のサービス業への就職割合が最も高くなっている。もっとも、理工系についてみると、製造業への就職割合は 1990 年代以降、横ばい傾向で推移しているが (図 5-3-5 (A)参照)、就職者数自体はほぼ一貫して増加いてきている。このことから、企業等の研究開発の高度化に伴い、博士課程修了者への需要も高まりつつあると推測できる。

5.4.1 博士号授与数の推移

博士号取得者の数は、科学技術人材の資質を評価する上での重要な指標の1つと考えられる。

図 5-4-1 は、学位授与数の推移を主要専攻別にみたものである。なお、ここでいう学位授与数とは、学位規則に基づきその年度において授与された学位 (いわゆる新制博士) の数である。 1970 年代前半は4千件台に留まっていた学位授与数は、1970 年代後半以降は一貫して増加し 1986 年度には8千件を超えた。その後、さらに増加傾向を強め、2001 年度には 1 万6,183件に達している。

2001 年度の授与数についてその主要専攻別の内訳をみると、保健 (医学、歯学、薬学及び保健学) が6,962件と全体の 43.0% を占めており、理学は1,602件 (9.9%)、工学は3,955件 (24.4%) となっている。

理学及び工学の構成比をみると、1970 年度以降、やや低下傾向で推移していた。しかしながら、工学については 1988 年度頃から、理学については 1991 年度から上昇に転じている。

図 5-4-2 は、理学及び工学の学位授与数について、課程博士数及び論文博士数の内訳別にその推移をみたものである。理学の学位授与数は 1980 年代までほぼ横ばいで推移していたが、1991 年度以降、増加傾向となっている。また、課程博士と論文博士の内訳についてみると、全ての期間を通じて課程博士数が論文博士数を上回って推移している。特に、最近における授与数の増はほとんど課程博士数の増加によるものであり、2001 年度における課程博士の割合は 85.9% にまで高まっている。

これに対し、工学の学位授与数はほぼ一貫して増加傾向で推移しているが、特に 1980 年代後半以降、その増勢を大きく強めている。内訳をみると、理学とは逆にほとんどの期間で論文博士数が課程博士数を上回って推移していたが、最近は理学と同様に課程博士数の増加が著しく、1992 年度には論文博士数を逆転し、2001 年度には全授与数の 74.2% を課程博士が占めるようになっている。これらの傾向は、5.3 節でみた最近における大学院への進学率の高まりが、その背景にあるものとみられる。


【図 5-4-2】 博士号授与数の推移 (課程博士/論文博士別)
資料:
図 5-4-1 と同じ。
参照:
表 5-4-2

5.4.2 博士号取得者数の国際比較

図 5-4-3 は、2000 年度における人口 100 万人当たりの博士号取得者数について、国際比較を試みたものである。国により学位の内容等に差があることに留意が必要であるが、これによると、人口 100 万人当たりでみて博士号取得者数が最も多いのはドイツで、317人となっており、次いでイギリスが192人、米国が159人となっている。日本は人口 100 万人当たりでみて博士号取得者数が127人であり、ドイツの約4割、イギリスの約7割、米国の約8割の水準に留まっている。

さらに、専攻別の構成比を各国別にみると、米国は人文・芸術及び理学、ドイツでは医学及び理学、イギリスでは理学の割合が高いという特徴がみられるが、我が国においては、特に医学及び工学の割合が、他の三国に比べて高いという特徴がある。

【図 5-4-3】 人口 100 万人当たりの博士号取得者数の国際比較 (2000 年度)
注:
  • <日本> 2000 年 4 月から翌年 3 月までの博士号取得者数を計上。
  • <米国> 2000 年 9 月から始まる年度における博士号取得者数を計上。これには、Ph.D.(Doctor of Philosophy)やD.Sc. (Doctor of Science) 等の博士号取得者が含まれるが、M.D.(Doctor of Medicine)等の第一職業専門学位取得者は含まれない。
  • <ドイツ> 2000 年の冬学期及び翌年の夏学期における博士試験合格者数を計上。
  • <イギリス> 2000 年 (暦年) における博士号取得者数を計上。
資料:
文部科学省、「教育指標の国際比較 平成 16 年版」、参考統計 A
参照:
表 5-4-3、参考統計

5.4.3 科学技術人材の育成(まとめ)

本節のデータをみると、学位取得者数はほぼ一貫して増加傾向にあり、近年は、特に課程博士数の増加が著しい。

かかる傾向は、近年の科学技術・学術研究の進展や急速な技術革新に伴い、先端科学技術分野を中心として、独創性・創造性を有する科学技術人材育成のために、大学院博士課程の果たす役割が重要となってきていることの現れと考えられる。

もっとも、5.3 節でみてきたとおり、企業等では、新製品開発の即戦力としての修士課程修了者に対するニーズが高くなっている。今後は、創造性豊かで専門的知識・能力に秀でた博士号取得者を、大学や公的研究機関のみならず企業等でも十分に活用していくことが望まれる。



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8 オーストラリアの移民政策

特に第二次大戦後は、国防上の理由と経済復興のために大量移民政策がとられ、今日 までに. 650万人の移民受入れ ... 主義政策は、多様性の容認から包摂、統合の方向へ と、近年その重点を移行させている。 オーストラリアの移民 ..... 世界各地から様々な 背景を持つ移民を受け入れるようになったオーストラリアは、1970年代. 後半から、移民 が ... read more

第 3 章 知識社会における科学技術人材 - [NISTEP REPORT No.73 ...

第 1 節では、知識社会の進展自体に触れるとともに、知識社会への移行が必然性を 持つ背景について述べる。 ..... この傾向は、積極的に高度人材を受け入れるという、 1970 年代以降のオーストラリア政府の移民政策に支えられている。 ..... 対象者 無作為 抽出した現役研究者 2000 人、有効回答者数 1355 人) においては、女性研究者の 少ない理由に関して、「出産・育児・介護」がその理由として最も多くあげられている (図 4 -2-3)。 read more

オーストラリアの歴史 - Wikipedia

こうした過程で侵略者と先住民の、あるいは侵略者や移民同士の軋轢を経験しつつ、 オーストラリアはヨーロッパ人が侵略し植民 .... 1780年代のイギリスは、 エンクロージャーによる土地喪失者、産業革命による失業者などが都会に集まって犯罪 者の数が激増した。 ... 毛皮を使用する試みを支えることは1788年にニュー・サウス・ ウェールズ州に英国の植民地を確立するための理由の一つだった。 ..... 制の是非を巡る 論議が盛んになった。1995年6月発表の政府案では、2001年までの共和制移行を 目指す方針が示された。 read more

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