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社説1 米金融安定化へ素早く成果を出せ(10/5)
米国の金融危機に歯止めをかけることをめざした米金融安定化法案が下院でも可決、ブッシュ大統領の署名を経て成立した。米国の金融システムを立て直すための抜本的な対応策がようやくスタート地点に立つ。
重要なのはスピードである。法律だけできても、対策の柱である不良資産の買い取りが進まなければ意味がない。目に見えた成果が早期に出るよう、米国の政策当局は全力をあげてほしい。
金融安定化法案の目玉は最大で7000億ドル(約74兆円)の公的資金を使って金融機関の不良資産を買い取ること。米国の金融機関が相次いで経営難に陥ったのは、住宅バブルの崩壊で保有する住宅関連証券や住宅ローン債権の価値が急落したためだ。金融機関がこうした不良資産を持ち続ける限り、損失は膨らみ、危機� ��止まらないと判断した。
米下院は「納税者のおカネを使って金融機関を救済するのは不当」として先週初めに法案を否決し、その結果、世界的に株価が下落するなど市場の不安感が一段と高まっていた。遅れたとはいえ、法案が成立したのは歓迎すべきことだ。
もっとも、不良資産の買い取り策が果たして機能するかについては疑問の声も多い。
納税者に損失が及ばないように政府が安く買えば、金融機関の損失はさらに膨らむので、金融機関が売却に二の足を踏む可能性がある。一方、高めに買えば国民負担が増えるとして、議会から批判を受ける公算が大きい。米当局は、こうした壁を乗り越えるための工夫を迫られる。
また、米政府が実態とかけ離れた高い価格で不良資産を買わない限り、金融機関の� ��己資本不足という根本問題は消えない。
銀行や証券会社の整理統合が一気に進んだため、経営が極端にぜい弱な大手金融機関は減ってきたが、損失拡大に資本増強が追いついているとはいえない。何らかの形で公的資金を注入する必要があるのではないか。というのは、もはや金融システムの立て直しに時間をかけていられない状況になっているからだ。
米国経済は金融危機の深さの割に持ちこたえてきたが、最近は雇用や消費の落ち込みが目立ってきた。金融機関同士の資金の融通さえできない状況が続けば、信用収縮が景気を悪化させ、それが金融を不安定にするという悪循環のリスクが高まる。
米当局があらゆる手段を素早く使って危機の連鎖を防ぐ。米国だけでなく、米国発の金融危機の影響を受けた世界� �それを求めている。
毎日新聞 2008年10月5日 0時08分
社説:米金融法成立 実体経済の悪化、食い止めよ
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今こそ行動の時だ--。そんな呼びかけの高まりに押され、米国の政治がついに動いた。予想外の下院否決で株価が暴落し、世界を震え上がらせた金融安定化法案だったが、上院での修正案可決、下院の再採決を経て議会を通過、ブッシュ大統領が署名し、ようやく成立した。
「行動」がなかった場合の影響を想像すると、安堵(あんど)しないではいられない。最大75兆円の公的資金を活用した不良資産の買い取りが効果を上げるよう、米政権には改めて迅速な実施を求める。
わずか数日で一転、可決となった背景には複数の要因があろう。預金者や納税者に配慮した修正案の上院可決はその一つだ。議会指導部や大統領候補者らによる懸命の説得活動も後� �しした。だが決め手となったのは、下院否決後の株価暴落など市場の大波乱と、それを受けた米世論の変化ではないか。
「国民の血税によるウォール街救済は断じて許せない」という怒り一色から、「このままでは自分の暮らしが危うくなる」という危機感の広がりへと空気が変わった。否決後、反対議員の所には、それぞれの選挙区から、資金繰りや将来の年金への影響を心配する切実な声が寄せられたという。何も手を打たず、状況を放置する選択肢はない、として態度を変えた議員が少なくなかったようだ。
しかし、安定化法成立をもって、状況がすぐ好転するわけではない。危機は金融の世界で深まっているだけでなく、実体経済にも波及している。米国の景気指標は、雇用や企業の景況感をはじめ軒並み急激に悪� ��しており、すでに景気後退局面に入ったとの見方も支配的になってきた。
悪循環がどんどん進み、長期にわたって深刻な不況が続くという事態は何としても防がねばならない。必要となれば、公的資金による金融機関への資本注入や、財政、金利両面からの景気下支えなど、米国は大胆な追加策を果敢に実行することが大事だ。
法案審議を経て、金融業界などへの規制の強化を求める声が強まっている。市場の機能に対する不信感もかつてないほどの高まりを見せている。ただ、規制を見直すのは当然だとしても、冷静さを欠く対策に走ってはならない。
経済のグローバル化や産業の多様化などが進んだ今と約80年前の大恐慌時を同列に議論するのは不適切だ。しかし、広範で大幅な関税引き上げという保護主義� �など当時の誤った政策対応が、不況を解消するどころかより深刻化させたという教訓を思い起こすのは、今も有益であるはずだ。
日本も含め世界経済はこれからより厳しい局面に立つことになろう。不安心理の暴走を許さないためにも、主要国の結束がこれまで以上に大切になる。
朝日新聞 2008年10月5日(日)付
社説:米金融救済法―これは出発点にすぎない
どこsuffraggette excitにした
難産だった。最大7千億ドル(約75兆円)の公的資金を投じて金融機関が抱える不良資産を政府が買い取る。これを柱とする米国の金融救済法案が下院で可決され、成立した。
当初案は下院で否決され、世界の市場に緊張が走った。しかし、上院が大型減税などを追加・修正して可決した案を、下院も何とか受け入れた。
これで、金融危機に対処する最低限の陣形がやっと整った。
とはいえ、安心してはいけない。買値が高すぎると国民負担が膨らむし、安すぎれば金融機関の損が拡大するので売り手が現れないからだ。
そのうえ、制度を使う金融機関の経営陣の報酬を制限したり、買い取り後に損失が膨らんだら金融業界が穴埋めの追加負担を求められたりする条件がついた。安易な利用に歯止めがかかった半面、75兆円も用意しながら買い取りが滞る恐れもある。
不良資産の買い取りが動き始めれば、遠からず次の対策が必要になってくるだろう。
危機の根本にある住宅市況の下落は底が見えないし、景気も悪化してきた。不良資産は今後も拡大しそうだ。体力のある金融機関は率先して不良資産を売って身軽になるが、苦しいところは持ちこたえられなくなる。
行き詰まった金融機関は、公的資金で静かに処理する。生き残る見込みがあるなら、公的資金を資本へ注入して立て直す。そうした対策である。金融システムの安定維持のため、米国民が払う負担はこれからも続く。
今回の法案をめぐる議会の苦悩と決断は、米国民がそのような覚悟を固めていくうえで、よい学習になったのではないだろうか。
金融危機と格闘しているのは米国だけではない。とくに、米国の住宅バブルが飛び火していた欧州では、金融機関の損失が拡大して緊張が高まってきた。各国で銀行が国有化されたり、預金の全額保護が打ち出されたりしている。米国と同様に3千億ユーロ(約44兆円)の救済基金を共同で設けることなどが提唱され、4日には英仏独伊が緊急首脳会談を開いた。
欧州では国により、金融機関の規模や当局による監督方法がまちまちだ。ユーロ圏の国とそれ以外にも分かれており、危機対応に手間取るとの懸念もある。このようなねじれやギャップを克服し、全欧州で素早く動ける態勢づくりを急がねばならない。
日本では今のところ金融危機の心配はない。だが、バブル崩壊期に作られた危機回避の仕組みのなかには、期限を迎えて姿を消したものもある。世界的な景気落ち込みが押し寄せるなど、日本経済もこれから厳しさを増す。たじろぐことなく、備えを整えておかなければならない。
(2008年10月5日01時49分 読売新聞)
金融安定法成立 早くも求められる次の一手(10月5日付・読売社説)
ニューハンプシャー州でサッポロビールを購入する場所
米国の緊急経済安定化法(金融安定化法)が、迷走の末、ようやく成立した。
苦境にあえぐ米国の金融機関を救う"切り札"と期待されているが、肝心の金融機関からは「使い勝手が悪い」との指摘も出ている。金融危機を抑え込むには、なお追加対策が必要となろう。
この法案は、金融機関の不良資産を最大7000億ドル(約74兆円)の公的資金で買い取ることなどを柱としている。米議会下院が3日、賛成多数で可決した。
下院が9月29日に否決した時は、ニューヨーク株式市場の株価が過去最大の暴落を記録し、世界の市場を大混乱させた。
下院がまた否決すれば、市場は再び動揺し、世界的な� ��機が深刻化しただろう。大差で可決したことはとりあえず朗報だ。
上院は1日に可決済みで、ブッシュ大統領がすぐに署名し、法律として成立した。危機の回避に向け、一歩前進といえよう。
下院が2度目で可決できたのは、法案を修正し、預金者保護の充実や、税の優遇措置の延長などを追加したことによる。これで公的資金投入に反対していた議員の多くが賛成に回った。
修正点は金融安定化とは関係が薄く、議会選挙向けとしか思えない内容も目立つ。財政への悪影響が懸念されるが、金融危機回避には、やむを得まい。今後は、公的資金による不良資産の買い取りを早急に開始することだ。
だが、運用面に不透明な点も多いのが気がかりだ。
例えば、不良資産の買い取り価格をどう決めるのか が難しい。高い価格で買い取ると国民負担が膨らみ、価格が安すぎると、金融機関の財務健全化に力不足となる恐れが大きい。
不良資産の買い取りに加え、金融機関の資本増強にも公的資金を投入すべきだとの指摘がある。自己資本不足に陥っている銀行などが多いからだ。これが次の焦点になるだろう。
米国では、金融危機が実体経済に波及し、それが金融不安に跳ね返る悪循環が現実味を帯びる。
危機が飛び火した欧州でも、フランス、イギリスなど主要4か国が首脳会議を開き、金融危機対策を協議した。
日本も、景気後退色が一段と強まってきた。雇用や企業業績が急速に悪化している。
日米欧などが緊密に連携して、政策協調を強めることが、ますます重要な局面といえよう。
産経新聞� ��2008.10.5 03:23
【主張】米金融法成立 危機収束の一歩にすぎぬ
公的資金による不良資産買い取りを柱とする米国の金融安定化法案が修正の末、ようやく下院で可決され、大統領の署名で法律が成立した。
先月29日に下院が当初案を否決した際には、株安、ドル安が拡大し、米国は金融恐慌のふちに立たされた。今回の可決は、サブプライム問題の震源地として果たすべき当然の責務だったといえる。
再採決に際しては、ブッシュ大統領はもちろん、マケイン、オバマの両大統領候補もその重要性を国民に訴え、前回反対票を投じた議員らの説得工作を行った。
もし下院が今回も可決しなかったら、米国発の世界恐慌は現実になっていたかもしれない。危機を先送りすればするほど不良資産の処理費用は増大し、実体経済に大きな影響を与えただろう。米議会にも、金融システムを守るには政府の介入が不可欠だとの理解がようやく深まった証しと見たい。
この法律の中身は下院に先立って上院が今月1日に可決した修正案と同じである。最大7000億ドル(約75兆円)の公的資金で金融機関の不良資産を買い上げるほか、金融機関に新株取得権の提供を義務付けて経営� �監視する。
「税金での救済」という国民の批判に配慮し、減税や預金保護の上限を現在の10万ドル(約1050万円)から25万ドルに引き上げるなどの措置を追加した。
しかし、この法律はまだ、危機収束に向けた最初の一歩にすぎない。金融機関の資本増強策が法案には欠けているからである。
不良資産の買い取りは、将来の国民負担を考えて簿価より低い価格で購入せざるをえない。その場合、金融機関は多額の損失計上を余儀なくされる。その結果として破綻(はたん)金融機関が続出するようなら金融危機の連鎖はかえって強まることになりかねない。
そうした事態を回避するためには、不良資産買い取り後の資本不足を補ってやる必要がある。いずれ抜本的な公的資金による資本注入は避けら� �まい。欧州各国はすでに公的資金を投入し、経営が悪化した金融機関の国有化に相次いで踏み切っている。
不良資産の買い取りと資本注入は、セットで行われてこそ効果を発揮する。10日にはワシントンで先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれる。欧州と日本はその場でも米国に強く対応を働き掛けるべきだ。
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