2012年4月23日月曜日

レスター・ブラウンインタビューエコエコノミーとは何か - Http://www.jimbo.tv/



(このインタビューは、論座2003年5月号に掲載されたインタビュー記事に加筆したものです。)

対談 LESTER BROWN × 神保哲生
日時 3月20日
場所 ホテル・ニューオータニ

神保 私たちは、今あの武力行使を行っているブッシュ政権が、環境政策の分野でも、とても後ろ向きなことを知っています。すでにアメリカは京都議定書からも離脱していますし、その他の環境対策もブッシュ政権になってから、アメリカは多くの分野で後退しています。

環境学者のブラウンさんが、のブッシュ政権の政策を見た時、私たちが今、目の当たりにしている単独行動主義的な外交政策と、とても後ろ向きな一連の環境政策の間に、何らかの関連性を見ることはできますか。

ブラウン ブッシュ政権の対イラク政策と見ると、彼らは武力行使を正当化するために、イラクをテロと結びつけたり大量破壊兵器と結びつけたり、いろいろな言い訳を考え出しては、何とか武力行使を正当化しようとしていますが、もしブッシュ政権の意図がそのような安全保障的なものに限定されるのであれば、なぜ核兵器を開発する意思を表明している北朝鮮を放っておくのかという疑問が出てきます。

ブッシュ政権の狙いは明らかです。大量破壊兵器が理由なら、イラクよりも先に手をつける国があるはずです。テロとの関係というのなら、9・11の17人のハイジャック犯のうち12人はサウジアラビア人だったことを忘れてはなりません。その中にイラク人は、一人も含まれていませんでした。

また、中東の民主化が目的だ、とも言っていますが、ならばクウェートから始めてはどうでしょう。

このようにどの角度から見ても、今ブッシュ政権がイラクでやろうとしていることは、正当化できませんし、国際社会に対しても説得力を欠いています。

その一方で、ブッシュ政権の主要閣僚の多くが石油産業と密接なつながりがあり、石油業界から多くの政治資金を得ています。イラク攻撃を正当化するためのその他の理由は、どれをとっても説得力を欠いている以上、残念ながらあれは石油のための戦争だと言わざるを得ないでしょう。

ご存知のように、ブッシュ政権はとても石油業界との関係が深い政権です。ブッシュ大統領もチェイニー副大統領もともに石油業界の出身で、石油関連企業から多額の政治献金を得ています。

ブッシュ政権が、石油業界の意向をその政策に反映させる強固な意思を持っていることは、ブッシュ政権が一昨年の4月に発表したエネルギー計画を見ても、明らかです。

その計画では、いかにカスピ海沿岸地域の石油採掘量を増やすかとか、新たな油田を開拓するかとか、石油の増産や安定供給の追求方法ばかりにページが割かれていて、将来にわたって石油をアメリカのエネルギー政策の中心に据える姿勢を明確に打ち出しています。その一方で、今後のエネルギー政策の核とならなければならない風力発電などの再生可能エネルギーの存在は、全く黙殺されています。あたかもこの世には風力発電などというものが存在しないと言わんばかりの内容となっています。

私は、ブッシュ政権が、風力エネルギー協会の予想値を意図的に報告書から外したとは思っていません。彼らは多分そういう見通しがアメリカでも最も信頼できる専門家たちの手によってすでに発表されていること自体を、知らないのだと思います。もともと眼中にないのです。ブッシュ政権を構成する人々は、風力がものすごい勢いで伸びているエネルギー源であることも、人類の将来にとって、とても重要なエネルギー源であることも、根本的に理解できていないのだと思います。

神保 去年南アフリカのヨハネスブルグで開かれた地球環境サミットでは、パウエル国務長官の演説に対して、聴衆から厳しいブーイングが湧き起こりました。京都議定書を離脱したアメリカが、その他の分野でも、再生可能エネルギーの推進などの足を引っ張っていることに、NGOのみならず、ヨーロッパや発展途上国の代表団までが、不満を露にしたのです。

しかし、唯一の超大国となったアメリカは、世界からどう思われようが、痛くも痒くもないというのが、ブッシュ政権の一貫した姿勢であることは、私自身すでにいろいろな分野で経験済みです。

私がここでお聞きしたいのは、そのアメリカにアメリカにぴったり寄り添ってしまっている日本のことです。安全保障問題だけならまだしも、ヨハネスブルグでも、日本はアメリカと組んで、ヨーロッパが主張した再生可能エネルギーの数値目標の導入も潰しました。

辛うじて京都議定書は、日本がホスト国だったこともあり、日本は議定書から離脱するところまでは行かずに済みましたが、再生可能エネルギーでも他の分野でも、国際的な協議の場で、日本がアメリカやオーストラリアと組んで、持続可能な環境政策の推進を邪魔するケースが多いのが、悲しい現実です。

ヨハネスブルグでは、ヨーロッパのNGOの人たちから繰り返し聞かれました。なぜ日本はそんなにアメリカの尻拭いをするんだと。小泉政権もブッシュ政権と同じ「石油政権」なのか、なんて聞いてくる人もいました。

そう聞かれて考えてみると、小泉政権が再生可能エネルギーに後ろ向きになる明確な理由は見つからないんですね。安全保障面でアメリカに依存しているからといって、環境やエネルギーの分野まで、アメリカべったりになる理由にはなりません。

それに、経済的な利害関係かれ言えば、そもそも再生可能エネルギーは、日本のメーカーが世界でも最もリードしている分野でもあります。もし、ブッシュ政権のように経済的な利益を優先するのであれば、日本はむしろ政策的に再生可能エネルギーを推進する立場にあってもおかしくないのに、なぜ? というわけです。

ブラウンさんの目には、今の日本のスタンスはどう映っていますか。


クロックは、英国を変更しない場合

ブラウン 日本については、2つの興味深いことがあります。まず、環境の分野では、日本は世界でも指導的な立場にあります。例えば、エネルギー効率では、1970年代のオイルショックを機に、日本は省エネを劇的に進めることに成功しました。そのため日本は、燃費効率の高い自動車の開発に成功し、一時は日本車がアメリカ市場を席捲しました。日本車に太刀打ちするために、デトロイト(アメリカの自動車産業)はより燃費効率の高い自動車の開発を余儀なくされたのです。

太陽電池の分野でも、日本はリーダーです。これももとはと言えばアメリカの技術でした。1950年代に、ベル研究所で最初に考案されたものです。しかし、日本はこの分野でも頭角を現し、今や世界をリードする立場にあります。特にシャープがリードしています。

このように日本は、多くの環境分野をリードする立場にあります。

しかし、その一方で、日本は国際社会において、経済大国としての影響力を使って、他の国の行動に影響を与えるまでには至っていません。日本はまだ、自らリーダー役を務めようとしていないように私の目には映ります。日本の経済力と、他国を引っ張っていくために求められる国際社会での政治力の間には、まだ大きなギャップがあります。

神保 ブラウンさんが最新出された本「エコ・エコノミー」について、うかがいます。まず、このエコ・エコノミーというのは、どういう意味なのですか。

ブラウン 私は、環境的に持続可能な経済システムについて、長い間研究し議論してきました。経済システムを、環境的に持続可能なものにするためには、どうしたらいいかということです。ただ、「環境的に持続可能な経済」という言い回しは長いし、難しく聞こえるので、それを簡単にして、エコ・エコノミーという言葉を使うことにしたんです。。この方が語呂もいいし、私も気に入っています。

神保 なるほど。最初のエコはエコロジー(生態学)のエコなのですね。

ブラウン そうです。

神保 この本を通じて、ブラウンさんが訴えようとしたことは何だったのでしょう。

ブラウン レイチェル・カーソン以来、近代の環境運動というのは、常に何かに反対する運動でした。そのため、環境学者は何にでも反対する人なのだと思っている人が少なくありません。環境運動が何に反対しているのかは、誰の目にも明らかですが、それでは逆に、環境運動が賛成しているもの、つまり環境運動が何を達成しようとしているかは、必ずしも多くの人にわかり易い形にはなっていませんでした。

そこで私はこの本を通じて、環境活動家が求めているものを提示そうと考えました。つまり、私たちが主張しているような環境の原理に基づいた社会を形成した場合、その社会がどのようなものになるのかということを、具体的に提示したかったのです。

そうすることで、私たちが主張するエコ・エコノミーというものが、経済活動を阻害したり経済活動の脅威になるものではなく、むしろ経済の形をそのようなものに変えていくことで、より長期にわたる成長が可能になることを、理解して欲しかったのです。

現在、ビジネスマンの多くや経済学者たちは、環境も経済システムの一部だと考えています。環境問題=(イコール)汚染セクターという考え方です。経済活動に伴い発生する汚染は、おカネをかけて浄化すれば、問題は解決するというアプローチです。

これはあくまで経済が中心にあり、環境はその一部という考え方です。それも、経済を阻害する制約的な要素を持った一部という立場ですね。

しかし、もし真実はその逆で、つまり、経済は地球環境、地球の生態系の一部だと考えたら、どうなるでしょう。まず持続可能な環境があり、その下にサブシステムとして経済活動が行われるという考え方です。

もし仮にそれが正しいとすると、経済活動はその上部システムとなる地球環境と、互換性が必要になるのは当然のこととなります。

私の目的は、その仮説の正しさを明らかにすることです。

神保 地球環境が崩壊すれば、経済活動も続けられませんし、政治も社会も全て、地球環境が維持されることが前提になっていることですから、ある意味では当然の仮説と考えることもできますね。

ブラウン しかし、今日の世界の現状は全くそうなっていません。グローバル化する経済システムのもとでは、経済活動の地球環境への負荷は大きくなるばかりです。その環境負荷の影響を、私たちは日々新聞やテレビで目撃しています。漁獲高の激減、森林の減少、砂漠の拡大、帯水層の縮小、温暖化と極地の氷や氷河の溶解、海面上昇、猛り狂う台風、死滅する珊瑚礁、現象する動植物など、いずれも地球が経済活動の負荷にもはや耐えられなくなっていることを示しています。

私たちがかなり早い段階で到達した結論は、人類がこのままの経済活動を続ければ、地球のエコシステムは崩壊が避けられないということでした。そして、更に研究や考察を続けるうちに、もう一つのことが明らかになりました。それは、私たち人類には、地球のエコシステムを破壊させないでも経済活動を維持できるようなシステム、つまり地球環境と互換性を持った経済システムを構築するためのノウハウが、既に備わってきているということでした。

世界に目をやると、私たちがエコ・エコノミーを構築する上でやらなければならないことは、ほとんどすべて既に地球上のどこかの国が実行に移しています。

私たちは、デンマークの風力発電にエコ・エコノミーの実例を見ることができます。イスラエルの灌漑、58パーセントの鉄鋼をくず鉄から製造するアメリカの小型の溶鉱炉、韓国の森林再生、流通する紙の72パーセントをリサイクルしているドイツ、都市交通の37パーセントを自転車が支えるアムステルダムやコペンハーゲンなど、いずれもエコ・エコノミーが実現できている実例です。日本の屋根上のソーラーパネルを使った太陽熱利用も、エコ・エコノミーの一例です。


いくつかのコネチカットmajoir工場は何ですか

このように既にエコ・エコノミーを実現するために必要な技術は、いたることころで実用が始まっています。ここで重要なことは、それが単に持続可能で環境に優しいというだけではなく、経済的にもペイする、つまり経済的にも成立している点です。環境に良かろうが悪かろうが、いざ経済的に成立するようになれば、放っておいてもすべては転がるように広がっていきます。それが、エコ・エコノミーの考え方です。

それが一つずつ実現していくことで、地球のエコシステムと互換性を持つ経済活動がどんなものであるかが、次第に明らかになっていきます。そして、それが地球規模で実現した時に、人類は地球環境を維持しながらも、発展を続けることが可能になります。

しかし、逆にそれが実現できなければ、いずれ近いうちに今日の経済体制は、必ずや行き詰ってしまうでしょう。地球のエコシステムと互換性の無い経済活動には、未来はありません。

神保 確かに部分的にはエコ・エコノミーの萌芽は見られるのかもしれません。しかし同時に今でも世界では、化石燃料に依存する経済体制を少しでも増大させようと、血眼になっている人がほとんどです。ブラウンさんは、今のペースでやっていて人類は、手遅れになる前に、真のエコ・エコノミーを実現できると思いますか。また、それを可能にするためには、まずどこから手をつければいいのでしょうか。

ブラウン そのペースが問題です。さっきはいいニュースをたくさん並べましたが、私はエコ・エコノミーの実現の可能性については、決して楽観はしていません。ペースは満足から程遠いものだと考えています。

ここまでの戦略を大幅に見直さない限り、私たちに勝ち目はありません。

それでは何から手をつければいいか。いろいろありますが、最優先は、エコロジカルな真実、つまり今本当に何が起きているかを、少しでも世の中に広く認識させることだと思います。現在、それが行われていないことが、最大の問題です。

人は誰でも、自分たちの経済活動や社会活動の根幹が崩れ始めていることを知れば、もう少し環境問題に真剣に取り組むようになるはずです。しかし、今の経済システムでは、そうした情報はほとんど世の中に広く明らかにされていません。

例えば、アメリカのアトランタに疾病管理センターという政府機関があります。とてもプロフェッショナルな機関です。ここで先日、「タバコ一箱の社会的コスト」という試算を発表しました。その中では、喫煙によって罹るさまざまな病気の治療費や、そうした病気が経済的な生産性に与えるマイナスの影響など、あらゆる要素を考慮に入れて計算をした結果、タバコ一箱の社会的コストは、7ドル18セントになるということが明らかになりました。もちろんこの中にはタバコ農家のコストやタバコを商品化するための製造費用などは含まれていません。それを全て足したものが、タバコ本来のコストということになります。

それは空論のように思えるかもしれませんが、そうではありません。そのような試算が、それも信頼性の高い試算があれば、例えば財政危機に喘ぐ州政府は、最大でタバコの値段が7ドル18セントになるまで、タバコ税を上乗せするなどして、その財政的負担を喫煙者に負わせることが可能になります。州政府の最大の予算項目が医療保険費であることを考えると、当然の分担ということになります。

現実に去年、23の州がタバコ税を増税しています。中には、一箱1ドルも増税したところもあります。ニューヨークでは、州も市もタバコ税をあげました。

神保 単純に、生産コストや需給関係だけに基づいて価格が決るのではなく、税金などによって環境負荷を価格に反映させることで、エコ・エコノミー的な経済が実現できるということですね。

ブラウン その通りです。もし、タバコ1箱を吸う事の社会的コストが7ドル18セントだとすると、ガソリンを1ガロン燃やすことの社会的コストはいくらになるでしょうか。石油を採掘して精製してガソリンスタンドまで持ってきて、ガソリンスタンドで注入するためのコストではありません。それによって発生する大気汚染のコストはどうでしょう。WHO(世界保健機構)は、大気汚染が原因で、毎年300万人が死亡していると発表しています。もし300万が死んでいるのなら、病気になる人はもっと多いでしょうし、呼吸器系の疾患にかかる人も相当いるでしょう。恐らく何千万、何億という数にのぼるに違いありません。

ガソリンを燃やすことによって発生する酸性雨のコストはどうでしょう。そして、更に重要なコストは気候変動、地球温暖化のコストです。

ブラウン 貴方が制作した地球温暖化に起因する海面の上昇で最初に沈む島と言われる南太平洋の島ツバルのリポートにもあるように、もし地球の温暖化によって引き起こされる海面の上昇で、海面が1メートルあがった場合のコストは、どうでしょう。海面が1メートルあがると、バングラデシュの耕地の40パーセントが水没することになります。同時に、約4000万人を移住させなければなりません。4000万人を移住させることのコストはどうでしょう。今、人口1万1000人のツバルの国民を移住させることで大騒ぎになっているのに、こっちは4000万人ですよ。

神保 実際にIPCC(国連気候変動政府間パネル)は、2100年までに海面は最大で88センチ上昇するとの予報まで出している。これはもう決して、「イフ(もし)」とか「メイビー(ひょっとして)」の世界の話ではありませんね。

ブラウン その通りです。バングラデシュだけでも4000万人を移住させなければならない。その他の地域でも必要になる移動を全部考えると、人類の大移動に匹敵する、いやそれ以上の人口が移動することになります。そのコストなんて、想像もできないと思うでしょうが、それを想像し始めなければなりません。そのように、環境のコストを考えることで、初めてその本当の意味がわかってきます。


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北極の氷が溶けることのコストも、考え始めなければなりません。全米地球物理学協会の科学者たちは、去年12月の会議の場で、北極海の氷が24年前と比べて、22パーセント減少していると発表しました。北極はもともと海に浮いているので、海面上昇にはそれほど寄与しませんが、それにしても、北極の氷が全て消えてしまうまでに、それほど多くの時間はかかりません。恐らく数十年といったところでしょう。氷の無い、水だけの北極なんて想像できますか。

それが意味するところは、地球では太陽光線が北極海の氷に当たると、その80パーセントは反射して宇宙に再放出され、地球はその20パーセントだけを吸収していましたが、もし北極の氷がなくなると、太陽光線の80パーセントが地球によって吸収され、反射されるのは20パーセントになってしまいます。それが地球にどれほどの気候変動をもたらすか、想像してみてください。既に、その兆候が始まっています。アラスカや北極で気温が急激に上がっています。1.5マイルの厚い氷に覆われたグリーンランドでも、氷が急激なペースで溶け始めています。

科学者たちは最近になってようやくグリーンランドの氷の溶解の深刻さに気がつき、計算を始めました。そして明らかになったのは、グリーンランドの氷が全て溶けると、地球上の海面が7メートルも上昇することが明らかになったのです。

これはもうバングラデシュの耕地の話ではありません。世界のほとんどの海岸地帯が海に沈んでしまうのです。

神保 税制も重要な要素なのではないでしょうか。人々や企業の経済活動は、多分に税制によってコントロールされていると思います。
また、そのコインの裏側は、補助金です。先進国は依然として環境負荷の高い産業に補助金を出していますが、むしろそれが逆にならないと、エコ・エコノミーは見えてこないように思います。

ブラウン その通りです。税制と補助金は、エコ・エコノミーの中でも、重要な要素です。税制はまた、先ほどから指摘している環境コストという概念をそのまま商品に上乗せすることができるため、高い効果が期待できます。補助金は、持続可能な経済を推進し、逆に持続不可能な経済を軟着陸させる上でも、大きな役割があります。

しかし、税制も補助金も政治的にはとても大きなハードルがあります。いかなる政治家も、再選を目指す以上「増税」という言葉を使いたがりませんし、既得権益に対する「補助金」を切りたがりません。

例えば、今アメリカでは、環境負荷の高い鉱業には補助金を与え、環境負荷を軽減する役割を持つリサイクル業には補助金を出していません。これなども、エコ・エコノミーを実現する上では本来逆でなければならないのですが、政治的な理由から、このような不合理な状態が続いているわけです。

化石燃料についても、同じことが言えます。化石燃料業界は、世界全体で年間2100億ドルの補助金を得ています。想像してみてください。例えば、気候変動に対策に2100億ドルの補助金が出ることを。そして、それを使って、再生可能エネルギーの開発ができたとしたら、どんな成果があがるかを。

世界は既にそれを始めていなければならないのですが、依然として鉱工業や化石燃料には莫大な補助金を出し続けています。そのため、石油価格が鉱物の価格が、環境負荷を反映していない価格、つまり安すぎる価格に設定されてしまっているのです。その結果、その産業は多くの人を雇い続けるため、政治的にも集票力があり、また政治献金も多くできます。そして何よりも、再生可能エネルギーへのシフトが、自らの保身に逆行すると考える人を多く輩出してしまっているのです。

この戦いに勝つために、もう一つできることがあります。それは、経済活動にはそれほど大きな影響はないのに、環境負荷という観点からは大きな意味を持つ製品や活動を禁止したり廃止したりすることです。

第二次世界大戦では、アメリカは車の製造を3年間禁止しています。想像できますか。だのに、今は、ガソリンを湯水のように使うRV車の燃費に、一定の制限を設けることすら、できないと言います。犠牲が大きすぎるとか、規制が強すぎるというのです。

ブッシュ政権は、経済活動にはいかなる規制も不必要である言います。

第二次大戦でアメリカが自動車の製造を一時禁止した理由は、戦争に勝つためには労働力を急速に集中させる必要があり、ルーズベルト大統領や当時の国の指導者たちは、最も労働力が集中している産業が自動車産業であることに着目したわけです。

しかし、年間300万台もの自動車を製造していた産業を、一時的とは言え、いったん完全にストップさせるというのは、決して簡単なことではありませんでした。大きな犠牲を強いるものでした。しかしアメリカは、自動車工場を一斉に戦車や飛行機などを作るための工場に改造したのです。それはそれは、驚くべき転換でした。とにかく、さっきまで自動車を作っていたクライスラーの工場が、数ヵ月後には戦車が作っているのですから。

なぜアメリカがそのような転換を成し得たかといえば、私たちは心配だったからです。このまま戦っていては日本に負けてしまう。負ければ、今の自分たちの価値や生活が脅かされてしまう。アメリカは、この戦争の帰結に自分たちの利害が大きく関わっていることを、理解していたからこそ、そのような大変な転換も可能だったのです。

しかし、今日の環境問題が私たちに与える影響は、その時よりも遥かに大きなものです。にもかかわらず、どれだけ多くの人が、事態の深刻さに本当に気がついているか。第二次大戦の時のアメリカを凌ぐような重大な問題、私たちの全てに多大な影響を与える問題が、数多く起きています。その数は、数え上げたら、きりがありません。

その環境的な事実を世の中に少しでも知ってもらうことが、この戦いに勝つための必須条件となると思います。

神保 未来像について、あまり楽観的ではないということですね。

ブラウン 楽観的ではありませんが、希望はもっています。


過去の文明を研究してみると、その多くが、環境的に持続不可能な経済、つまり経済システムがその環境によって支えられなくなってしっているにもかかわらず、その経済システムを変えることができなかったために、衰退の道を歩んでいます。

初期のシュメール文明も、素晴らしく進んだ文明でした。車輪を発明したのもシュメール人でしたし、最初の文字を発明したのも彼らだと言われています。そても洗練された灌漑システムを考案したために食糧の余剰が発生し、それが人類最初の都市の形成につながったと言われています。都市ではきっと文字の発明で、沸いていたにちがいありません。ちょうと今のインターネットのような感じでしょうか。

しかし、彼らの灌漑の仕組みには問題がありました。ダムや運河を作って、水を集めたとき、その水の一部が地中に浸透してしまうのです。その結果、長い年月を経て、帯水層が上昇してきてしまいました。帯水層が地表からまずか数十センチのところまで上がってきた段階で、問題が表面化し始めました。植物は十分に根を張ることができなくなってしまったからです。そして、水が地表から数センチのところまで上がってきた時、水が地表から蒸発し始めるようになりました。地下水はもともと多少の塩分やミネラルを含んでいるものなので、地表から水が蒸発するようになると、塩などの残留物が地表に蓄積し始めました。土地の塩分は少しずつ、しかし確実に上昇し、作物の収穫量が次第に減少していったのです。

今日で私たちには、シュメール人たちが、その時自分たちの身に何が起きていたのかを、理解していたのに、変革を実行するために必要な政治的支持を集めることに失敗したたために、事態に対応できなかったのかかどうかは、わかりません。

しかし、今私たちは、地球に何が起きているかを知っています。そして、帯水層の上昇が一つの文明を弱体化したように、大気中の二酸化炭素濃度の上昇が、私たちの文明を弱体化しています。そして私たちは、そのことを知っています。

今私たちに問われているのは、その政治的意思の有無です。その方向へ人々を導くリーダーシップがあるかどうかです。

神保 さて、最後の質問ですが、ブラウンさんがそうして戦い続けることができる秘訣は何ですか。そのパワーはどこから出てくるのですか。

ブラウン うーん、いい質問ですが、難しいですね。

私が長年環境問題と関わってきて、わかってきたことは、社会的変革というもは、常に段階的なものとは限らないということです。時には、一つ分水嶺を越えると、一気に物事が動き出す場合も少なくありません。

1989年から90年にかけての東ヨーロッパの変革がその一例です。その、わずか10年前に、どの政治学者に聞いても、東欧の共産主義が一気に崩壊するなどということは、誰にも想像すらできませんでした。それが、一つのことをきっかけに次々と連鎖反応を起こし、気がついたらあっと言う間に、ベルリンの壁が、それもルーマニアを除くと無血革命によって、崩壊してしまいました。

タバコの規制も同じような経過を辿りました。あれだけ健康被害の原因となっていると指摘されながら、大勢のロビイストを抱え、誰が何年押し続けても全く規制をすることができなかった巨大なタバコ産業が、ある段階から一気に議会や裁判で槍玉に上げられるようになりました。今は、どんな裁判でも、タバコ業界側が負けるのが当たり前のようになっています。それはまるで、もうタバコを売るのは諦めなさいと言っているかのようでさえあります。しかし、今日のタバコ産業の状況を、わずか10年前に誰が想像できたでしょうか。

これもまた、分水嶺を越えた瞬間に、一気に変革が加速をしていった実例だと思います。

ある段階では、まったくあり得ないような変革も、一つの段階を超えた瞬間に、一気に変革が進むことは、よくあります。

化石燃料の業界は、地球温暖化や気候変動は、自然現象であって、人間の手によるものだとは言い切れないと主張しています。また、化石燃料の燃焼と温暖化の因果関係も、科学的根拠が弱いと主張します。一昔前のタバコ産業の主張と同じです。化石燃料業界も、ロビイスト、政治献金では、一時のタバコ産業に負けていません。

しかし、彼らもまた、大変なリスクを犯していると思います。それは、そう遠くないうちに、地球上の誰もが、地球が温暖化していて、気候変動による影響は疑いのないものになる日が来ることは間違いがないからです。そうなった瞬間に、化石燃料業界は、社会の信用を失います。

私は、地球環境に対する世の中の認識も、ある段階を超えた時に、一気に加速度的に早まるのではないかと考えています。今は、とても実現しそうもない変革が、ある分水嶺を越えた時、雪崩れを打ったように、一気に訪れる可能性は、十分残っています。

今は、地球環境を守る戦いに、人類は完敗しています。しかし私は、その可能性、つまり一気に変革が訪れる可能性がある限り、それを信じて戦って行きたいと考えています。

神保 本日は長い時間、ありがとうございました。

ブラウン 私もとても楽しかったです。ありがとう。また、やりましょう。
(このインタビューは、論座2003年5月号に掲載されたインタビュー記事に加筆したものです。)

July 15, 2003

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