藪さんと定さん
このシリーズは弊サイトとしてただひとつの「時事ニュースもの」である。2003年2月から4月にかけて、比較的頻繁な更新を行った。
しかしながら、その成果ははかばかしくないものであった。このページがヒットする検索語もニュースが過ぎ去るとともにめっきり使われなくなり、閲覧される機会の減少は想像以上の早さで進行した。活用される情報としての価値を失ったということは、素直に認めざるを得ない。
一応「シリーズもの」としているものの、より「枯れた」コンテンツとするため再構成をはかることとした。その第一段を先頃公開している。
2003.4.5
クルド人のまわりはトルコ、イラン、アラブという大きな3つの勢力に囲まれており、いずれに対してもクルド人はマイノリティです。かつ、前回お話ししたように統合はできていない。
もし仮に自治権を拡大する、あるいは独自の国家を樹立するにしても、周辺から孤立することは避けねばならない状況といえます。また、海をもたない内陸であることも制約となる条件です。仮に油田を確保したとしても、主な輸出の手段であるパイプラインが接続されているのはトルコの地中海側、ユムルタルック(アダナの近く)であり、そのほかのルートを経由させるにしても周辺の地域を通過させることは避けられません。
今回の戦争でイラク領内のクルド人勢力は藪さんの支援を受けていると伝えられています。武器、物資の供給に関する明確な情報は把握していないものの、「米軍特殊部隊司令官は1日、イラク北東部のイラン国境付近に拠点を持っていたイスラム過激組織アンサル・アルイスラムを、クルド人勢力との共同作戦により壊滅と発言。 」「4日、イラク北部の反体制クルド人勢力は、イラク軍と戦闘を繰り広げながらモスル近郊を目指して前進、米軍はこれを支援するべくイラク軍を激しく空爆。」(いずれも外務省イラク情勢ページ)などの関係が持たれています。
攻撃への反対を表明していたフランスやドイツも態度を変えつつあるなか(時事)、財政状況の芳しくない周辺各国もこの先イラクのことなど他人事で(米英とも)政治的な「落としどころ」を求めることになるでしょう。しかし、戦争自体は「イスラム世界と米英」という対立が目立つ推移をしていることも事実です(アルジャジーラの存在はでかい)。こうなってくると藪さん(≒反イスラム)の側に付いてしまったのは長期的には失うものの多い選択であるかもしれません。
各国の民族主義にクルド人との接点を見つけることは難しい以上、イスラムはクルド人問題をソフトランディングさせる数少ないキーワードのひとつです(唯一絶対ではないが)。このキーワードを使いにくくしかねない一連の動向は、今後イラクの諸勢力との調整をはかる過程で障壁となる可能性を孕んでいると考えています。
周辺各国やフランス、ドイツ、ロシアなどと妥協をはかった結果として、今回も藪さんに「梯子をはずされる」危険はやはり高そうです。藪さんの側で動いていたことが、そのときの交渉過程で不利な条件として持ち出されることは十分に考えられ、結果的にクルド人の得る「果実」を減らされるというのは「ありそうな展開」だと思います。
一方、藪さんに「梯子をはずされなかった」場合には、さらに厄介な事態に陥るのではないか?という危惧もあります。あまり注目されていないようですが、今後のプロセスとしてクルド人勢力の武装解除もまた問題になってくるはずです。定さんの勢力が武装解除された状態でクルド人勢力が武装解除されずに温存されてしまったり(定政権と同じことが繰り返される)、自治権拡大の方向でイラクとは切り離す動きが進むと(内部紛争の危険)、「断末魔」を迎える可能性も否定できません。
イラク北部に対して世界食料計画(WFP)による救援物資の輸送が本格化したことが報じられています(外務省イラク情勢ページ)。「補給」の重要性がたびたび取りあげられている今回の戦争ですが、こうした救援物資もある意味補給であるわけで、今の段階では必ずしも賛成とは言いにくいと考えています。
さて、「藪さんと定さん」のシリーズも9回目になってしまいました。もともと長編にする予定ではなかったため、このページ(編集前中後記)での掲載を続けてきましたが、字数も1万字を越え、そろそろ限界に達しつつあるようです。
当初はトルコによる協力が限定的なものになるという見通しの下(1月17日セゼル大統領談話など)、トルコ経由のルートが制約される藪さんの軍隊が本格的な攻撃をできるとは思えない、という仮定で2月19日の記述を行いました。しかしこの予測ははずれ、関連して取りあげたい争点も広がってきています。
弊サイトでは肥大化しきったコンテンツ(とるこのととと)を抱えており、新しいコンテンツの追加を管理能力の面から躊躇していましたが、中途半端な「仮住まい」では記述しきれないことも多く、独立したコンテンツとしての再構成を検討をはじめています。おおむね週末ごとの更新を行って参りましたが、もう1、2回更新するか、あるいはしばしお休みをいただいた上で新コンテンツに移行する可能性もあることをお知らせしておきます。
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2003.3.30
作られたエンパイア·ステート·ビルディングは何ですか?
今回からはあまり気が乗らない、クルド人の話です。気が乗らない理由はいくつかありますが、中でも厄介なのは「祖国を持たない、気の毒な少数民族が、周辺の国々や大国によって虐められている」という言説に恐ろしいほどの魅力がある、ということになりましょう。このサイトにはクルド人に関して必ずしも好意的でない記述もあるのですが、そのような記述に対しては少なからぬ「お叱り」を当事者以外の方から受けてきました。
にもかかわらず、敢えて掲載を決めたのは、今回の戦争を経ても相変わらず「主役」にはなれそうにないことがひとつ。そしてもうひとつは、現在の彼らの動向に、もしかすると今後大きな禍根を残す可能性の芽があることを感じているからです。
クルド人が多数を占める地域を訪問する方は決して多くはなく、情報も豊富といえる状況ではありません。Googleでクルド人の多い地域(主にトルコ東部)の地名を検索してみても、例えばサフランボルやブルサのようなトルコ西部とは検索結果の数に格段の差があります。日本語で発表をされている方の中では「トルコのもう一つの顔」の著者である小島剛一氏が、もっとも広範かつ長期間にわたりこの地域を歩いた方であることに変わりはないようです。
かくいう私も訪問したことのあるのはトルコとシリアの一部に限られており、クルド人の多い地域での滞在経験は多くありません。トルコに関しては状況の非常に悪かった地域(ハッキャリやトゥンジェリなど)をのぞき相当の範囲を踏破したものの、滞在したのは累計でもわずか3ヶ月程度にすぎません。
さて、ここでもまずはコンセプトの話からです。非常に乱暴な表現をすれば「クルド人というコンセプトはない」ということになるでしょう。これはかつてトルコ政府が使用していた「クルド人が山岳トルコ人であって、そのような民族は存在しない」という言説とは異なる趣旨です。「クルド人」と呼ばれている人々が実は相当に多様であって、到底ひとくくりにできるものではない、というのが意図するところです。
著者の意図を確かめたわけではありませんが、小島氏の著作での主なテーマは必ずしもクルド人ではなく、現在のトルコ共和国に存在する少数民族一般であると理解しています。紙数の多くを割いているデルスィム(トゥンジェリ)はトルコ東南部のなかでも特殊な地域であり(クルド人問題と重なりつつもずれている部分もあり、クルド人問題の主要な部分ではない)、クルド人の多様性を示すものといえます。そして、黒海沿岸や地中海、エーゲ海の地域に関する記述にも相当の紙数を割いており、トルコの民族構成もまた多様であることがわかるはずです。
しかし、多様だと言っているばかりでは話が前に進みません。多少の無理は承知の上で、特殊なものではなくより一般的な「クルド人マジョリティ」をあぶり出すとすれば、どんな人たちになるのでしょう?
まず、このことは見落とせない事実なのですが、トルコの西部を中心とした都市に住んでいるクルド人については、少なくとも日常の生活において目立った対立点もなくトルコ人と共存しています。かなりの程度トルコ社会への同化、あるいは「トルコ化」が進んでいると言うこともできるでしょう(「同化」という言葉に激しいアレルギーを起こす向きもあるようですが、ここでは論じません)。
トルコの東部、東南部に暮らしているクルド人に関しては、トルコ国民としての生活に馴染んでいる層もいる一方で、トルコ人との間にかなりの差がある面も目立ちます。宗教の面ではきわめて保守的なイスラム教徒であり(これはトルコでイスラム政党が拡大したこととも密接な関係がある)、言語の面では主にクルマンチュを話すグループということになろうかと思います。
そのクルド人マジョリティについても、一枚岩とは言い難い状況です。ここからはいったん国境を跨いでの話になりますが、大きな勢力だけにしても、オジャラン(身柄は拘束中)のPKK(クルド労働者党、主にトルコで活動)、イラク側ではバルザーニのKDP(クルド民主党)、タラバーニのPUK(クルド愛国同盟)の3グループくらいに分かれています。
周辺国としては、独自の国家を樹立するとしてもそれを引き受ける受け皿が用意できているわけではないことが関心事になるわけです。統一的な指導者をもてないままで独自国家を樹立しても内部紛争が起こるだけであり(以前のアフガニスタンと似ている)、そうした国ができるのは「近所迷惑」であるというのが本心でありましょう。(つづく)
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2003.3.22
定さんは純一郎さんに名前で呼んでもらえませんでしたねえ。「危険な独裁者」ですか。日本語は単数と複数の区別が曖昧ですし、対象を限定するのに便利な冠詞もありませんから、こういう場合に難しかったり、便利であったりします。さて、今回は飛行機の話でもしてみます。
日本からヨーロッパ方面を結ぶルートには、シベリア上空を通過するものが広く使われています。1980年代まで主流であった日付変更線をまたぐアンカレッジ経由や、各駅停車さながらの南回りに比べ、ヨーロッパへの旅行は格段に便利になりました。
コロラド州デンバーの高度は何ですか
しかし、シベリア上空を通過するルートを飛行するためには、ロシアに対して高額な上空通過料を支払う必要があります。2002年のW杯では、カメルーン代表を乗せた専用機がこれをケチろうとしたのか南回りルートを選択し(しかも、パリからいったんエチオピアを経由した)、さらにその南回りルート上でも上空通過料の問題から到着が遅れたという事件は、ご記憶されている方も多いと思います。
ところで現在、トルコ航空の日本-トルコ線はシベリアを経由しません。主に中央アジアの「トルコ系」諸国上空を飛行してゆきます。若干回り道になるものの、上空通過料のことを意識したルートであると考えられそうです。そして、潜在的な脅威であるロシアの世話にならずに極東へのルートを確保できることにも魅力があるのでしょう(シベリア回りを利用することもあるらしいが、使える代替ルートを持っていることの意味は大きい)。
上空通過料を徴収するという流れは一般的になっており、遅ればせながら日本も2000年より実施しています。陸上だけではなく洋上の管制区域も対象になりますから、狭い狭いと言いつつ海を含めると世界有数の「大国」になってしまう日本の大きさがよくわかる分野です。
さて、20日のトルコ大国民議会(国会)は、米軍などの軍用機の上空通過を許可する政府案を、トルコ軍の北イラク派遣案とともに可決しました。政治的判断に多くを依存する問題ですが、もともとトルコに駐留している米軍機も多数あるわけですし、上空通過の問題はわざわざ確認せずともこれまでの制度を運用するだけで相当程度解決可能だったような気がします。
藪さんは行きがかり上トルコに対して「お礼」を言っていましたが、今月はじめに否決された案に比べると、地上部隊の駐留に触れていない点で大幅に後退しています。むしろまったく違うものと考えた方がよいくらいであり、今回の案は藪さんとしては「羊頭狗肉」でありましょう。その割には藪さんに対して恩を売れるタイミングなので、「恩着せがましいお墨付き」の仕返しと見ることもできそうです。
で、しばしば痛烈な皮肉を淡々と言ってのけるトルコの大統領、セゼル氏の出番です(この人は面白いんで、また別の機会に書くかもしれない)。そのセゼルさん、米軍等のイラク攻撃開始時の談話で「ありゃ正当ではないな」とあっさり言ってしまいました。藪さん立場がありません。
よくよく見てみますと、今回可決された案で領空通過を認めている対象は米軍に限定されていません。そして相談していたかのように法案可決とほぼ同時に、必ずしも藪さんの言うとおりになってくれない人たちを含むNATOがトルコ支援を確認しています。
「イラクの反撃から加盟国トルコを守る」という建前になってはいますが、トルコ軍を北イラクに派遣すると言っているそばからわざわざ確認をしている。要するに「留守番は任せろよ」ということであり、これがあればトルコ軍の自由度はぐんと高まります。
これを聞いた藪さん、この間まで自分が(トルコ軍北イラク進駐を)許可するって言っていたにもかかわらず、今度はそんな必要ないだろうと慌てています。普段は人権問題などことあるごとに難癖を付けあっているわりに意外と「仲良し」な関係もあるという、国際政治の面白いお話といえましょう。
思ったよりも重心は(さしあたりNATOの枠組みで動いている)青旗連合の方に移り始めているかもしれません。面倒な爆撃は遠くから来た藪さんに任せて「復興支援」という名のおいしいとこ取りを企み始めているのでしょうか。「得をするのは誰なのか?」興味深く見守りたいところです。
そういえば、どうやら地中海沿岸からイラク国境付近まで、民間車両による米軍物資・人員の輸送が行われている模様です。NHKの秋元解説委員もこのことに触れていたようであり、まだ確証を得ていない私としてはソースを伺ってみたいところです。
駐留を許可された地上部隊が移動するのと違い、民間車両ということはいちいちお金を払わないといけないんでしょう。これは完全に想像ですが「往復なら値引きする!」とか、無茶苦茶なこと言って吹っ掛けているようすが目に浮かびます。したたかに儲けている御仁がいらっしゃるのですかね。
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2003.3.15
今回はこのシリーズの本筋に戻ってみます。トルコ軍の北イラク進駐をめぐるお話です。
イラク国境に近い地域にはもともと大規模なトルコ軍の部隊が駐留しており、兵員や兵器を輸送していることが極端に注目を浴びる出来事ではありません。しかし、用事もないのに部隊を置いているわけではないのもまた事実です。
イラク攻撃が実施されれば(あるいはイラク情勢が不安定になれば)当然に難民が発生します。問題は、難民の中にテロ活動家をはじめ安全とはいえない分子も含まれているであろうことでしょう。「難民を追い返した」ということになればすぐに国際世論の非難を浴びたり、普段来ていない団体まで乗り込んでくる世の中ですから、できる限り早い時点で動きを封じ込めておきたいということになります。
説明するまでもないことですが、トルコ軍はトルコ国民の税金(と兵役という形での貢献)で維持されている以上、トルコ国民(=納税者)の安全や利益を確保することがまず第一の行動規範になります。それゆえ、イラク攻撃をするのならばトルコ軍をイラクに進駐させろという主張は仕方のないことです。
少し上
さて、トルコ軍がイラク北部で活動すること自体はこれまでもたびたび行われてきました。イラクもまた主権国家である以上、このような行為は本来看過できないはずです。
定さんが黙っている理由には、トルコ軍の力を利用して国内のクルド人勢力を押さえ込めるからという事情も指摘できるでしょう。しかし何度か申し上げているように、トルコとイラクの間には乗り越えがたい力関係の格差がありますから、トルコ軍が領内に入り込んでも定さんは指をくわえて見ているよりほかない、という事情の方が大きいと考えています。
これまでトルコ軍がイラク領内で活動することに関しては、国際社会から目立った非難を浴びることもなく、ほとんど「お咎めなし」の状態でした。クウェイトに侵攻したイラクがコテンパンに叩かれたこととは好対照であり、国際政治の現実をまざまざと見せつけるケースといえましょう。
藪さんはイラク攻撃に向けた米軍駐留の見返りのひとつとしてトルコ軍の北イラク進駐容認を提案しています。しかし、この期に及んで恩着せがましく「お墨付き」をもらったところで、トルコにとって魅力的なオファーであるとは考えにくそうです。
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2003.3.8
今回は「コンセプト」のお話からです。
まず、アラブ、イラン、トルコはそれぞれ異なる文化であり、これらを一緒くたにすると理解をするためのコンセプトを間違えてしまうことになります。コンセプトが誤っていれば、どれだけ情報を集めても頭をひねっても理解は困難と言えましょう。
一方、「トルコはヨーロッパなのかアジアなのか?」というよくある問いはなかなか難題です。自信なげに「いずれにも属し、かついずれにも属さない」と答えることになってしまいます。鯨や蝙蝠を分類するようなはっきりした指標があるわけではありません。
さらに「トルコがイスラム教国であるか?」という問いもよくあります。この問いにはさしあたり「ノー」と答えることができるでしょう。現在のトルコ共和国の制度では世俗主義をはっきりと謳っています。
さて、イスラム教の優勢な国や地域でも、制度として宗教と政治は切り離されているところの方が多く、世俗主義が採られていることをもってトルコをイスラムから切り離すのはやや説得力に欠けます。論理を補強するトルコの独自性はおおよそ2つ指摘できるでしょう。
まずは制度面の強固さです。憲法の世俗主義に関する条項は改正が禁止されています。従って世俗主義を放棄するとすれば、憲法も破棄せざるを得ないわけで、それは「革命」に相当し得る出来事になります。
もうひとつは、世俗主義および世俗主義的な生活が国民の間に定着してしまっているということです。そうでなければ「トルコで飲みまくる、食いまくる、温泉に入りまくる」という「とるこのととと」のコンセプトは成り立ちません(笑)。
しかし、昨年11月の総選挙ではイスラム寄りな公正発展党が勝利していることから、これには疑問をもたれる方も少なくないことでしょう。確かに1980年代以降を中心に、イスラム志向やイスラム寄りな政党に対する支持は目立つようになりました。
比例代表制を採用しているトルコの総選制度には得票率10%を確保しなければ議席をひとつも与えられないという条項があります。昨年の総選挙ではこのルールにより従来からの政党が軒並み議席を獲得できなかった一方で、公正発展党は得票率30%強で議会のほぼ3分の2に当たる議席を獲得しました。
得票率と獲得議席のアンバランスは政権に対する世論の支持の脆さにつながります。先週はイラク攻撃のための米軍駐留に関する政府案が否決されましたが、支持基盤の脆弱な政権での造反議員発生は珍しいことではありませんし、むしろ民意が反映されやすい故の出来事といえましょう。
トルコの民主主義も捨てたものではないなと思いつつ、明日行われる補欠選挙の結果を見守ることにします。
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2003.3.1
海峡の他にも、トルコは重要な資産を有しています。シリアやイラクに流れるチグリスとユーフラテスです。今ひとつピンとこないかもしれませんが、どちらも源流はトルコにあります。
中東において国際的な注目を浴びる資源の筆頭は石油ですが、乾燥した気候の多い地域内では、河川の水資源も同じくらい重要な意味を持ちます。トルコは湿潤な黒海沿岸地方も擁し(少なくともこの地域の中では)「水」に恵まれた国と言えます。
これらのうちユーフラテスの上流には巨大なアタテュルク・ダムを建設済みであり、下流のシリアは水資源を介してトルコの支配力を強く受けざるを得ない状態です。そしてハサンケイフの史跡を水没させ、近隣の環境、住民の生活基盤にも影響を与えるとして批判を受けているウルス・ダムをチグリスに建設する計画が進んでいます。
環境破壊はもちろんのこと、国際河川にダムを建設することを「けしからん」とする意見ももっともなものでしょう。しかし「善悪」を論じたところで戦略は見えてきません。
ウルス・ダムが竣工した暁には、イラクもまたトルコの影響力をより強く受けざるを得なくなるであろうことは想像に難くありません。水資源を通じての支配は核兵器のような「劇薬」ではなく、東洋医学のようにじわりと時間をかけて効果を発揮することでしょう。
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2003.2.25
ほろ酔い加減で好きなことを書くページになっていますが、どうやら少なからぬ常連のお客様にご覧いただいているようで、うれしい限りです。あまり目立たぬよう、更新マークは付けないで続けることにします。
トルコという国の場所のよさは世界の中でも白眉といえましょう。ボスポラス海峡(とダーダネルス海峡)を抑えていることはなによりの強みです。
ボスポラス海峡は国際海峡であり、トルコ以外の船舶であっても商船の通航は保証されています。しかし管理権はトルコが握っており(モントルー条約)、天候が悪いなどの事情があれば制限が設けられます。
イスタンブルに寄港する(主としてトルコの)船舶や、アジア側とヨーロッパ側を往復するフェリーは相当な悪天候になるまで運行が続けられます。しかし、優先順位の設定はトルコの「ハラ次第」の要素が大きく、つい先週も降雪による悪天候のため、危険物を積載した全長200m以上の貨物船は通行が止められました。
「危険物を積載した全長200m以上の貨物船」というのは要するにタンカーです。合理性があるとはいえ、これを制限することはカスピ海方面からの原油出荷にかなりの影響を及ぼすことになります。
冬から春にかけてのイスタンブルでうまい具合に(?)悪天候にめぐりあえば、沖合で大量の貨物船が通航を待たされている光景を目にすることができるでしょう。それらの船はたいていの場合トルコ以外の旗を掲げているはずです。
黒海艦隊もまた通航は可能ですが、トルコのお眼鏡にかなわなければ、いつでも、自由に、迅速に展開できるというわけではありません。ロシアという国は「無駄に大きい」わりに港湾がきわめて限定されています。「他人の庭先を通らなければ出かけられない」ということには、日本の感覚からは理解しにくい「辛さ」があるようです。
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2003.2.22
先日記した中では「諸々の利権」というところがポイントであることに気が付かれてしまったようであり、続けてみます。で、「ネタ集め」は公式資料を漁ることが第一歩です(公式資料をフォローするだけで手一杯なのだが)。
例えば、資源エネルギー庁の資料にも記されているように、アジアの国々は石油の中東依存度が高く、今後も高まる見通しです。ここで、中東の安定がアメリカに依存するようになっていれば、アジアの多くの国は藪さんの言うことを聞かざるを得なくなるわけです。単純に爆撃するだけではあまり「うまみ」がなく、できるだけ「長っ尻」をしたいということになります。
ただ、近所で様子をうかがっている「青旗連合」には藪さんの一人勝ちはおもしろくない方が大勢おられます。「いくらか回せ」「半分よこせ」くらいではおさまらず、「全部俺の」とでも言いたげです。
トルコという国はなにしろ場所がよく、どちらにとってもうっかり敵に回すと話が進まなくなります。これを使わない手はないと考えるのは至って当たり前な考えであり、藪さんからも「青旗連合」からもお小遣いをいただくという「漁夫の利」がトルコとしては狙い目になりそうです。
同じように場所がいいにも関わらず今ひとつ使い方がわかってない日本とは違い、「トルコ商人」はなかなかやります。戦略として「ありそうでなさそうで」は意外と食べ応えがあるということでしょうか。
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2003.2.19
メールに同じ返事を書くのもかったるいので(笑)、さらっと書いておきます。「可能性」としてはなんでも起こりうるわけですから、内容の保証はしませんよ。日本語メディアでは読売(
- イラク攻撃
- 後方支援を担うヨーロッパ諸国のコンセンサスが取れていない以上当分難しい。攻撃拠点のひとつであるトルコが合意しても、後方支援抜きで本格的に戦争を遂行することは難しい(ドイツ、フランスとトルコは「グル」かもしれないな)。藪さんの「メンツ」(と諸々の利権)を維持するための形式的な攻撃は考えられる。
- イラクがトルコに攻撃をする
- これは考えにくい。昨年記したように、攻撃の口実を与えたり攻撃規模を大きくするばかりで意味がない。わずかに残る可能性はアメリカやトルコがわざと攻撃の予兆を見逃した場合。
- トルコにおいてテロが頻発する
- テロをする理由がない。イスラム寄りな現政権下においてイスラム原理主義団体がテロを行うことは自殺行為である。なお、1980~1990年代に頻発したテロ事件は主としてPKKを中心とするクルド人組織によるものであり、イラクとは別問題。
- 海外安全ホームページ
- トルコに関するページで記事の見出しを「トルコの空港等...」に広げているのはいかがなものかな。参照している米国務省の発表は「トルコ東南部におけるテロ示唆の情報」と「ガジアンテップ空港」に対する注意喚起なんだけど。安全サイドに振って書きたいのはわかるが、やりすぎると肝心な情報が埋もれてしまう。
トルコの東南部は控えておいた方が良さそうです。それ以外の地域が(世界の他の地域に比べ)取り立てて危険ということはないと思うんですが、まああれです。卒業旅行で行く場合には「入社式に出られない」なんてことになるとまずいので、何かあったときの「脱出資金」を用意しておけば安心できるかもしれません。予備のクレジットカードを持っていくなり、親戚から10万円ばかりよけいに借りてトラベラーズチェックで持っていくなりすれば気休めになるでしょう(まあ、こういうことはいつでも言っているけど)。
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